特別企画P-CFO対談(代表理事 高森×3期荻野好正さん)を掲載しました

「パートナーCFOってどんな人?」
「実際の仕事はどんなことしているの?」

P-CFO協会では、パートナーCFOとして活躍する方のキャリアや仕事内容、そして人物像に迫るインタビュー記事でご紹介していきます。

今回ご紹介するのは、3期生の荻野好正さんです。
荻野さんは、元大企業の代表取締役副社長兼CFOです。大企業の経営者そしてCFOとしてあらゆる経験をしてきた荻野さんが、「大企業の社外役員より、中小企業に関わりたい」と、70歳目前で独立起業。中小・ベンチャー企業支援に面白さを見出し、実践中です。

今回は特別企画として、当協会の代表理事 高森厚太郎との対談形式でお届けします!
元大企業CFOが語る「中小・ベンチャー企業支援の面白さとCFOの役割」
ぜひ、ご一読ください!

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P-CFO対談 荻野好正さん

特別企画P-CFO対談
日本パートナーCFO協会 代表理事 高森厚太郎×3期修了生 荻野好正さん

70歳で独立、中小・ベンチャー企業支援の道へ。
元大企業CFOが語る「中小・ベンチャー企業支援の面白さとCFOの役割」

BIRTH KANDAにて

パートナーCFO養成塾第3期生の荻野さんは、元大企業の代表取締役副社長兼CFOです。大企業のCFOとして財務・経理に留まらず、経営企画から人事まで幅広い実務経験があり、事業再生ADR(裁判外紛争解決手続:Alternative Dispute Resolution)をけん引した経験の持ち主です。そんな、大企業の経営者そしてCFOとしてあらゆる経験をしてきた荻野さんが、「大企業の社外役員より、中小企業に関わりたい」と、70歳目前で独立起業。中小・ベンチャー企業支援に面白さを見出し、実践中です。

今回は当協会代表理事の高森との対談形式で、元大企業の経営者兼CFOの荻野さんが考える、大企業と中小・ベンチャー企業の経営管理の違いや、求められるCFO像についてお届けします。

【プロフィール】
荻野好正(おぎのよしまさ)
前曙ブレーキ代表取締役副社長兼CFO
2004年から2019年9月までは曙ブレーキ工業にて、役員を歴任し財務経理、新規事業、海外事業などに従事、2017年から代表取締役副社長兼CFOとして事業再生ADRを通じた同社の財務リストラを主導。それ以前は、伊藤忠商事にて海外電力プラント関連業務、経営企画関連業務(特に機械カンパニー経営、人事制度関連)、米国法人のCAOとして企画、人事、事業管理、べンチャー投資等を担当し、数多くのM&A、企業売却などに携わる。
静岡大学工学部、静岡大学大学院工学修士、シカゴ大学MBA

1.45年のサラリーマン生活で磨いた、経営管理力と事業再生の場面での推進力

大手総合商社で海外新規事業やリストラなど経営の様々な局面で実力を発揮。

高森「改めまして、パートナーCFO養成塾3期に来ていただきありがとうございます」

荻野「ありがとうございます」

高森「荻野さんはオンライン受講でしたので、実は、リアルでお会いするのは初めてですね。早速ですが、荻野さんのキャリアについて少しお聞かせください。最初が伊藤忠商事で、そこでMBAを取得され、その後曙ブレーキ工業に移られたということですが、それぞれ何年くらいいらっしゃったのですか」

荻野「伊藤忠には1975年に入社し、2004年まで30年おりました。曙ブレーキでは15年、合わせて45年のサラリーマン生活ということになりますね」

高森「伊藤忠商事ではどのような仕事をされてきたのですか」

荻野「最初の配属は電機プラント部です。発電関係のプラントを作ることをミッションとする部隊で、私も若い頃はヘルメットをかぶって中近東など海外の現場に出て、建設現場のプロジェクトマネージャーのようなことをしていました。その後、海外での電力事業などを手掛け、本社の経営企画を担当する業務部に移りました。今でこそ伊藤忠は調子がいいですが、当時は非常に厳しい状況で、大きなリストラを2回しています。私は1回目の時は人事政策担当として、2回目の時はアメリカでCAO(最高総務責任者:Chief Administrative Officer)として伊藤忠が保有する優良会社の売却を担当しました。その後会社の業績が戻ってからは、アメリカで新規投資なども担当していました」

50代の転職で大企業の顧問へ。前職で培った経営管理能力で、CFOそして経営者の道へ。

高森「アメリカにいらしたのは荻野さんが40代くらいの時でしょうか」

荻野「はい、40代後半から50代の初めですね。53歳で帰国するとき、『違う仕事をするなら最後のチャンスかな』と考え、伊藤忠を退職して曙ブレーキ工業に転職しました」

高森「曙ブレーキ工業とは、それまでに接点がおありだったのですか?」

荻野「伊藤忠商事の鉄鋼部隊は鉄のサプライヤーとして関係がありましたが、私個人的には全くなかったです。私のニューヨーク時代の上司が曙ブレーキの顧問をしていて、彼から『曙ブレーキ工業には君のような人が行くと本当に役に立てるから、考えてみないか』と2,3年前から言われていました」

高森「曙ブレーキ工業に移られてからの仕事というのは?」

荻野「最初は顧問として国内やアメリカの現場を回っていました。ところが、入社後半年で財務経理担当役員の健康上の問題で、急遽、財務経理担当を引き継ぐことになりました」

高森「キャリア的には、そこで初めての管理部門ですね」

荻野「企業財務分野については、そうですね。それまでもファイナンス以外の分野の管理はやってきましたし、MBAの勉強でファイナンスの概略はわかっていましたが、実務経験はないので、不安もありました結局1年間顧問をした後、常務CFOになりました。CFO部門には財務部、経理部、経営企画、管理会計四つの部門があり、やがて人事も担当するようになりました。最初は100人くらい、多い時は120~130人のスタッフを抱えていました」

大企業経営者・CFOとしての最後の仕事:事業再生ADR

高森「その後、曙ブレーキ工業では退任までずっとCFOをされていたのですか?」

荻野「2回しています。CFOを5年間した後に、企画管理関係全体の担当役員になり、企画、戦略、IR、人事、海外事業関係などを全部見ていました。CFOの後任として、2人CFOが5年間担当してもらっていたのですが、その後に2回目のCFOを拝命しました。財務的にだいぶ弱っていたこともあり、立て直しがミッションでした。さらに最後の7年は、代表取締役副社長も務めていました」

高森「曙ブレーキ工業では最後に事業再生ADRも担当されたとお聞きしています」

荻野「はい。経営悪化に対して1年くらいは優先株導入等も検討しましたが先が見えず、ADRに踏み切りました。2019年の1月に準備し始めて9月まで、9か月間は自分が専任責任者を務めました。債務が合計1,100億円、借入銀行が37行もあり、全行一致を目指すという話なので、結構大変でした。銀行に対してもいろいろ迷惑をかけたというのは事実ですから、退任するしかないと思い、ADR後の2019年9月に69歳で退任しました」

2.70歳で独立起業、フリーで活動開始

中小企業ならではの面白さに目覚め、70歳目前で独立起業。中小・ベンチャー企業支援の道へ

高森「退任された当時は、どのような人生展望を考えられていたのでしょう」

荻野「私は家でゆっくりするタイプではないから、やはり何か仕事をしなくてはと思いました。知人から顧問を頼まれたりして、2019年10月には3社の顧問をするようになりました」

高森「そういった中で、養成塾に来ていただいたきっかけは何でしたか」

荻野「顧問などをしていたものの、それだけでは時間を持て余していて、『今までできなかったことをやってみよう』と考えていた折、Webで日本パートナーCFO協会を見つけました。元々日本CFO協会は知っていたので、興味を持ち、調べていくうちに養成塾の第3期が始まると知り申込みました

高森「荻野さんのキャリアの中で、中小企業やベンチャー企業との接点はおありでしたか」

荻野「伊藤忠時代の調達先に中小企業があったくらいです。ベンチャー企業に関しては、アメリカにいた頃に投資側で関わった経験がありました。

フリーで活動し始めてから、XIB株式会社(旧XIBキャピタルパートナーズ株式会社)のシニアアドバイザー埼玉県の鉄工所の顧問として中小企業に関わるようになりました。また、地元の柏市にあるTXアントレプレナーパートナーズ(通称TEP(テップ))でベンチャー起業家のサポーターをしています」

大企業で重ねてきた実践経験を整理し、中小企業の感覚を知る場としての養成塾

高森「養成塾を受講してみて、どうでしたか?」

荻野「養成塾は全体が非常にうまく整理されているので、何をやらなくてはいいのかというファンダメンタルはきちんと学べました。良くまとめられているので、頭の整理に非常に良かったです。内容は、知っていることが99%、わからないことが1%という感じで、自分自身の経験を整理することができました。サラリーマン時代は必死になってやっていて、なかなか頭の整理をするどころではなかったので助かりました。

それから、メンバーが老若男女さまざまで、いろんな人と知り合えて話ができるのは非常に面白いなと思います」

高森「養成塾はご自身の知識の整理や経験の棚卸に良かったと思います。荻野さんご自身にはどういった変化がありましたか?」

荻野「中小企業、ベンチャー企業のCFOとして考えることは、大企業の中で考えることと全然違うということが良く理解できました。もし、自分自身がいきなり中小・ベンチャー企業の中に入っていたら、自分の経験の範囲しかわからないところも結構あったと思いますが、養成塾を通して全体像を整理できたのは非常に良かったです」

中小企業支援の面白さは、伝えたことが実現するのを見れること

高森「2020年11月に養成塾を終えて、今の荻野さんのお仕事について教えてください。どういうところの仕事を、どういう配分でされていますか」

荻野「企業の支援としては4社です。独立直後から続いている先として、ファイナンシャルアドバイザーをしている先が1社と、埼玉県の鉄工所での顧問業があります。顧問業は元々月1回だったのが、先方の要望に応えて月3回現地訪問と、週1回オンラインミーティングをしています。

養成塾に参加してからの話では、今年の3月からロボットを作るベンチャー企業の非常勤監査役を月1,2回でしています。また直近では、仲間と一緒にアドバイザリーボードを企画し、大阪の企業で1社、月2回で導入が決まりました。今後も、アドバイザリーボードから、ベンチャー企業や中小企業のパートナーCFOの仕事につながればやりたいなと思います。

それから、これからやっていきたいのは精神障がいの方の復職支援のプロジェクトです。ひきこもりの方や、精神的な障害・発達障害を抱える方の復職支援をするNPO法人の方と一緒に話を進めています。特に、IT周りに強みを持つ方を雇用して、リモートで仕事ができるプラットフォームを作り、復職をサポートしていきたいです」

3.元大企業経営者・CFOからみた中小・ベンチャー企業支援

元大企業経営者・CFOが考える、中小・ベンチャー企業ならではの面白さ

高森「中小・ベンチャー企業支援での醍醐味を挙げるとしたら何ですか」

荻野「中小企業とベンチャー企業も、中身を知ると別の生き物のように違うなと思いますね。中小企業やベンチャー企業は、支援先などをみていても、組織が小さく人数も少ないので『ツーといえばカー』と反応があるのは、非常に面白いです。大企業では、提案が実行されるまでのハードルも多く、時間もかかっていたので、中小企業ではもっと直接的に関われるところにやりがいを感じています。一方で、管理面の脆弱さに驚くこともあります」

高森「そういった中小・ベンチャー企業の管理の弱いところは、荻野さんのこれまでのキャリアが活きる場面ですね。パートナーCFOとしての関わり甲斐のあるところと思います」

荻野「実は大きな会社の社外役員の話が来ることがありますが、今は正直興味がないのでお断りしています。社外役員より、もっと企業の経営に近い立場で、本質的に関わる仕事をしていきたいと考えています」

高森「たしかに、中小・ベンチャー企業の支援ではより企業経営の根幹に近い位置で関われる点は魅力ですね」

元大企業経営者・CFOから見た中小・ベンチャー企業の経営管理の特徴と、パートナーCFOとしての葛藤

高森「パートナーCFOというのは、中小・ベンチャー企業向けの考えなので、大企業のCFOとはちょっと毛色が違うかと思います。荻野さんが考えられる違いはありますか」

荻野「一番違うのは資本政策ですね。企業の成長戦略と資金の調達源の違いなど含めて、違いが出やすいところです。考え方が全く違います。それから、中小・ベンチャーの会社では、社内の管理についてはこれから、という会社が多いように思います」

高森「そもそも管理担当の人がいなくて社長自らがやっていたり、経理のパートさん頼みだったり。管理体制について会社ごとの差は激しいですね」

荻野「その中でパートナーCFOとして何ができるのか、と考えたら、やはり戦略面で引っ張っていくことかなと考えています。ただ、パートナーCFOとして関わるうえでジレンマとなるのが、社内管理の確立・整理にどう関わるかということです。月に1、2回の契約で管理面を整えるには、社内に実務をしっかりできる人物が必要です。そうではない会社で管理系に手を出してしまうと、実務を自分でやっていくことになり、実質フルタイムCFOのようになってしまうのではないかと考えています。自分は頼まれると断れない性格なので、そこは葛藤ですね」

まだまだ続く、70代でのパートナーCFOとしてのチャレンジ。
次の目標は、社会課題の解決の仕組みづくりとベンチャー企業のIPO支援。

高森「荻野さんは今年71歳を迎えるそうですね。人生100年時代と言われていますが、荻野さんはやりたいことがたくさんおありなので30年でも時間がないとお感じなのでは。まずはこの先5年後にありたい姿や、特に力を入れていきたいところはありますか」

荻野「そうですね。働くのはあと15年といったところでしょうか。やはり、世の中のためになりたいという思いがあるので、引きこもりのサポート会社は形にしたいです。それから、IPO支援も1社やってみたいです」

高森「まさにそれはパートナーCFOのど真ん中ですね」

荻野「そうですね。あと一つやりたいのは、教える仕事です。管理会計や会社の管理関係大学の臨時講師を務めたこともあります。去年の夏管理会計学会の全国第会で登壇し、『企業のオペレーション上の黄色信号』をテーマに専門家の先生2名とQ&Aセッションをやって、論文も書きました。これは、3月に管理会計雑誌にも掲載頂きました」

高森「ぜひ荻野さんからの発信もお待ちしています。日本パートナーCFO協会は、メンバーの皆さんの活躍を後押ししたり、知見を発信する場でもあります。荻野さんには、これまでもサロンへの参加や案件紹介に手を挙げていただいていますが、当協会の分科会や研究活動の場としてもご活用いただければ。

中小企業のCFOならではのトピックスの中でも、特に中小企業のガバナンスや管理会計に関しては、学会でのアカデミックな知見や大企業での実務にとどまっていて、知見をまとめているところはまだないと思います。当協会としても、何らかの形で知見を集約し発信していけたら。ぜひ、荻野さんにはそうした知見を中小企業に向けて翻訳する存在になってお伝えいただければと思います」

さいごに

高森「荻野さんのような方に参加いただき光栄です。大企業と中小企業で異なる点はありますが、大企業での取り組みはいずれ中小企業に降りてくるものも多いと思います。ぜひ今後もお知恵を出して頂ければありがたいです。本日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

荻野「これからも、いろいろ参画していきたいと思います。ありがとうございました」

<写真・文>2期生 溝上愛
取材日:2021年4月8日