2021年9月25日

P-CFO 田中 祥一郎さん

「IT×パートナーCFO」で
クライアントを「ひとはな」咲かせる

合同会社 ひとはなコンサルティング
代表 田中 祥一郎 (たなか しょういちろう)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第2期生(2019年8月~11月)の田中祥一郎さんです。
田中さんは、ITベンダー(SIer)やコンサルティング会社でIT分野の経験を積み、2年前に独立起業されました。ITの専門家がパートナーCFOに関心を持った理由これからの事業の方向性について伺いました。

【プロフィール】
合同会社 ひとはなコンサルティング 代表
新潟県出身。大学卒業後、ITベンダー会社に入社し、SE/ITコンサルタントとして銀行や保険会社システム等の案件に関わる。コンサルティング会社、フリーランスを経て、2019年4月に同社を設立。大手企業に向けたITコンサルティングサービスを展開している。ITコンサルタント中小企業診断士パートナーCFOⓇ

合同会社 ひとはなコンサルティング
https://hitohana-c.co.jp/

経営者向けにIT活用法やDXについて情報発信中!
「経営者のためのIT活用」
https://note.com/hitohana_c

金融機関向けのシステム案件でスキルを磨く

田中さんは、どのようなキャリアをご経験されたんですか。

大学卒業後、東芝のIT子会社に入社してSEになったのがキャリアのスタートです。
担当したのは主に銀行で、メガバンクから全国の地銀・第二地銀、信用金庫までかなり幅広く担当しました。

具体的には、銀行の事務作業を中心に行う事務センターを対象に、システム導入による業務効率化とコストダウンに関する仕事が多かったですね。

たとえば、国民年金の保険料納付書のような帳票をOCR(光学文字認識)で読み取るシステムのPM(プロジェクトマネージャー)を担当しました。コロナ禍であらためて「紙とハンコ」の電子化がクローズアップされたりもしましたが、金融機関の現場は当時「紙の文化」が主流だったのでOCRを使って電子化し、省力化・省人化するというプロジェクトです。
並行して新しい業務フローを現場の方に覚えてもらわないといけないので、現場に出張してトレーニングも担当していました。

事務センターの職員は大半が女性なので、出張した際には彼女たちに「今日はいい天気ですね。仕事の具合はどうですか?」などと雑談していました。全国色々な場所の金融機関にお伺いしましたが、雑談することも楽しみの一つでした(笑)。

数多くの大規模プロジェクトを動かした

ITベンダーの後は、コンサルティング会社に転職されたんですね。

そうです。
今も一般的に言われている「転職するなら35歳まで」という風潮もあり、私も転職を考えていたのですが、首尾よく中小企業診断士の試験に合格して資格を取得したタイミングで転職しました。

コンサルティング会社では、顧客の経営層に対して直接関与するようなより大きなプロジェクトを担当することになりました。

生命保険会社の案件ではプロジェクトのメンバーが100人超の規模でしたが、このくらいの規模になるとPMが全てを細かく見ることができないので、PMO(Project Management Office)という組織を設置します。

PMOとはプロジェクトに関する進捗整理・報告書作成・品質管理・ミーティングのファシリティなどプロジェクトを円滑に進めるためのサポート的な役割を担っています。
大規模なプロジェクトになるとPMOは欠かせない組織で、ある種コンサルタントの花形なのですが、私はそのPMOチームのリーダーを担当しました。

PMOとしてはどんなところに苦労しましたか。

100人超のプロジェクトになると、開発を担当するITベンダーも複数社で大人数になるので進捗管理がかなり大変です。開発チームも10以上あったので、進捗報告を取りまとめるだけでも一苦労です。

ベンダーの進捗管理をIT業界では「ベンダー・コントロール」と言ったりしますが、利害の対立もある複数のベンダーをコントロールするのはいつも苦労しました。一方で大きなプロジェクトになればなるほど完成したときの達成感は大きいので、仕事の醍醐味はすごくあります。

顧客の後押しを得て独立

ご自身の会社を設立した経緯を教えてください。

PMOをやっているうちにITコンサルタントとしての独立を考え始めていたのですが、コンサルティング会社の同僚が一足先に起業しており、一緒にやらないかと声をかけてきたのでその会社に転職をしました。
在職期間は2年と短かったですが、その間に社員も100人を超えるというハイスピードで成長した会社であり、ベンチャー企業の成長を間近で体験することができました。

その経験をもとに2019年に独立しました。

独立する際には、最初の顧客をどうやって見つけるかが重要だと思いますが、田中さんの場合はどうでしたか。

私の場合は、会社員時代から付き合いのあったクライアントから「そろそろ独立しないのか?」とお声がけを頂いていましたので、それが後押しになりました。
そこでフリーランスとして独立したのですが、やってみてこれは行けると確信できたのですぐに法人化し、今に至ります。

お付き合いのあるクライアントは何社かあるのですが、会社員時代から私の仕事ぶりや能力を評価いただいていたことがきっかけです。クライアントとの良好な関係は現在も続いており、大変有難いことだと感じています。設立当時はもちろん一人会社ではありましたが、クライアントからのご支持もあり、安定的にお仕事をいただくことができていました。

クライアントにとっては、ITベンダーやコンサルティング会社と取引するよりも、田中さんのようにスキルのある個人と付き合った方がいいという面もあるのでしょうか。

基本的には大手の会社と取引するメリットのほうが大きいと思います。
わかりやすい例では、担当の人が病気などで動けなくなっても、大手の会社では代わりの人を用意できます。最近は改善されつつありますが、IT業界はかなりの激務なので精神面や体調不良による人員交代は普通にあるんですよ。この辺はIT業界に限らないと思いますが、個人やフリーランスは代替メンバーを用意できない点はクライアントにとって大きなデメリットです。

ただ、IT業界は慢性的に人手不足です。単に数が足りないだけでなく、クライアントのニーズに応えられるだけのスキルを持った人はそれほど多くありません。特に、プロジェクトをマネジメントできるPMはどこも引っ張りだこだと思います。

そのため、「有能な人材」とクライアントに思っていただければ、個人やフリーランスであっても下請けではなく、クライアントと直接契約することが一般的になってきたと感じています。

田中さんがクライアントからの信頼が厚いということがよくわかりました。

IT以外の知見を広げるためにパートナーCFO養成塾へ

独立された同じ年に養成塾に入られたのですが、その目的は何でしたか。

端的に言うと、ITコンサルティング以外で売り上げを立てたかったからです。私自身が起業したこともあり、その経験をもとに経営に関するコンサルティングサービスを展開したいと思って養成塾に入りました。
中小企業診断士の資格取得を契機にコンサルティング業界に転職したわけですが、残念ながら覚えた知識や資格がそのまま稼ぎに繋がらないんですよね。

コンサルティング業界は非常に高単価な業界で、戦略系であれIT系であれコンサルティング会社に頼むと、一人あたり月に200万円、300万円かかるのはざらです。もっと高い人もたくさんいます。コンサルタントが年間数千万の売上を出すことは珍しくないのですが、中小企業診断士のお仕事のみで同じくらい売上が出ている人はとても稀です。

自分なりの解釈ですが、コンサルタントの価値はクライアントの実情に寄り添った最適な提案ができることが大事だと思っています。やはり勉強で覚えただけの知識や資格を持っているだけではだめで、自身が長年培ってきた経験をベースにクライアントの置かれた状況を真に理解し、達成したい目標に対していかに最適な道筋が描けるかが重要です。

上記の背景もありITコンサルティング以外のサービスを立ち上げるためには、私自身が経営に関する経験を積む必要があると思ったのですが、そこまでの時間もありませんパートナーCFO養成塾では長年CFO業務を経験されていた高森さん自身の経験を体系立てて講義内容に落とし込み、CFOに関するあらゆる業務やノウハウを学ぶことが可能ということだったので、高森さんの経験をまるごと盗んでやろうというくらいの勢いで申し込みました(笑)

受講されていかがでしたか。

養成塾では、理論や一般的なことだけでなく、高森さんの経験談も惜しみなく話していただいたので、非常に勉強になりました。高森さんの書籍(「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」)には書いていないようなことも多かったと思います。

受講中には、単なる知識の習得だけではなく「このCFO業務は中小ベンチャー企業が一般的に行っていることなのか、それとも稀なことなのか?」、「パートナーCFOを行うとして、どのようなサービス展開がクラアントに受けるのか」など、CFO業務に関する考え方や手法の背景に関することもよく質問させて頂きました。受講したことで、パートナーCFOとしての「生きた経験」を学ぶことができたと思っています。

ITとパートナーCFOを掛け合わせることで弊社のサービス提供力をアップするということに繋がったので、その点でも受講して良かったです。
また、東京都などの制度融資を受ける際には、養成塾で学んだ「資金調達」を活用させてもらった結果、現在までに3回融資に成功しました。

“ひとはな”という社名に込めた想い

「ひとはな」とはどんな意味で、社名に使った理由は何でしょうか。

「ひとはな」という社名は、人と話すコンサルティング」「ひとはな咲かすお手伝い」という思いからつけました。

ITがこれだけ進化した今の世の中においても、コンサルティングというお仕事はやっぱり人と話すことが重要です。クライアントと腹を割って話しながら伴走することで、クライアントの夢を実現させるお手伝いがしたいという想いを込めました。

ひとはなの経営理念の一つに「“ちょっと”先の未来を便利でよりよいものにする」というものがあります。経営診断でよくあるような「過去の資料や数値に対して分析をする仕事」だけではなく、これからを良くしていきたいという「未来を作る仕事」に注力していきたいと考えています。それも遠い将来のことではなくて、できるだけ身近で小さなところからお手伝いをしていきたいですね。

経営者向けに情報発信

ところで、「経営者のためのIT活用」というブログをnoteで書かれていますが、その目的は何でしょうか。

経営者の方にDX(デジタル・トランスフォーメーション)をもっと知ってほしいという思いから始めています。DXは経営戦略の一つとして登場することが多いです。企業が実現したい目的を達成するための手段としてDXがありますので、経営者の方こそDXを知っていく必要があります。
経営者の方が「うちの会社でDXできるところはないか」とか「DXって結局何なんだ」などと疑問に思ったときに、私のブログを読んで「なるほど、そういうことか」と納得してもらえるような情報提供を目指しています。これまで50社以上の企業のDX事例を掲載しており、小売業から卸売業、不動産、鉄鋼、運輸、農業などあらゆる業種での事例がありますので、どの業種の経営者でも参考になると思います。

P-CFOサロンのメンバー交流企画では、田中さんからメンバー向けにDXについて解説頂きましたね。素人の私にもとてもわかりやすかったです。

弊社のウエブサイトにも書いていますが、DXとは単なるIT効率化の施策ではありません。企業が最適なサービスを届けるために人も組織もガラリと変えること(=変革すること)、と弊社では定義しています。

(ひとはなコンサルティングのウエブサイトより)

製造業であれば「労働者不足の対応」「熟練者でしかできないような業務の自動化」を、飲食・小売業であれば「非対面・非接触サービスの提供」などをDXとして実践している企業が多いです。これらのDXを実践するには業務オペレーションや組織体制の変革が不可欠ですし、DX実行の決断は経営者が強い意志のもとに行わなければ話が進みません。

弊社としても、経営者がより良い未来を作るための施策として最適なDXが選択できるよう、IT技術のノウハウや知見を提供しながらDX実現のお手伝いをしていきたいと思っています。

日本パートナーCFO協会のブログ(note)も執筆されています。

協会活動では、noteやTwitterなどSNSを担当しています。どちらもP-CFOメンバーとチームを組んで書いていますが、特にnoteでは財務、人事、M&Aなど経営全般に幅広く書いています。養成塾で学ぶ範囲と合わせており、様々な経歴や知識を持つ協会メンバーが執筆しています。協会メンバーの知見が詰まったお役立ち情報満載なので、ぜひ多くの人に読んでいただきたいですね。

ソフトとハードを融合したコンサルティング事業を立ち上げ

会社設立から2年ほど経過していますが、今後の目指す方向は何でしょうか。

1期目は私1人でITコンサルティングをやっていたのですが、1人でこなせる業務量の限界が見えてきたので、前期から業務委託やアルバイトの増員をしています。

そして今年は新たな事業をやろうと思っています。

これまでの私のキャリアはITコンサルティング、システム開発・アプリ開発のようなソフトウェアの分野が多く、クライアントは大手企業が中心です。そこで大手以外の中小企業も含めたハードウェアのコンサルティング事業を始めたいと思っています。

DXはソフトウエアの分野だけでなく、工場であればロボットやセンサといった工作機械などハードウェアの世界にもDXが波及しています。
弊社としても、今後DXのコンサルティングサービスを展開していくためにはハードウェアの人材が必須だと考えています。

今秋に、東芝時代の知人で設計者の方を採用する予定です。メカの設計から調達・開発まで幅広くキャリアを積んだ方なので、その方が入社次第、ハードのコンサルティングも本格的に始動しようと考えています。

どんなビジネスプランをお持ちなんですか。

中小企業のDXはまだまだこれからだと思っています。たとえば物流工場や製造系の企業に対してハードのコンサルティングを提供し、そこからソフトとハードを組み合わせた総合的なITコンサルティングサービスの実現を目指しています。
中小企業の工場は全国にあるので、昔のように全国を出張して現場の方たちと雑談しながらお仕事ができるといいなと思っています。ある意味、原点回帰ですね(笑)

今後の方針としては、従来の大手クライアント向けのITコンサルティングで安定的に稼ぎつつ、中小企業向けのDX化という新規ビジネスに乗り出す、ということを考えています。

IT×パートナーCFOの世界がどんどん広がりますね。新規事業の大成功をお祈りしています。

(編集後記)
田中さんとは養成塾の同期なので以前から存じていますが、ご自身の仕事についてじっくり伺ったのは初めてでした。

インタビューの中でも触れていましたが、講義の中では積極的にしかもかなり具体的なことを質問されていたので、「深く考えているんだな」と感じたことを思い出しました。 DXが中小企業にも浸透していく中で、ソフトウエアもハードウェアも対応できる田中さんのこれからの活躍に期待したいと思います。

<取材・文>第2期生 森本哲哉
取材日:2021年7月29日