2021年11月30日

P-CFO 中山 大志さん

「人と組織」 ×パートナー CFOで
クライアントの成長を促進させる

株式会社アクセラ 代表取締役CEO
中山 大志 (なかやま だいし)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第2期生(2019年8月~11月)の中山大志さんです。
帝国データバンク在籍時代を含め、これまで4,000名以上の経営者の経営相談に乗ってきた中山さんは、主に中小・中堅企業やベンチャー企業に対して、「人と組織」の切り口から経営支援を行い、クライアントの成長をアクセラレート(加速・促進)させてきました。
プライベートでは、一時は寝たきりになる難病を克服し見事にカムバック。
養成塾でパートナーCFOのスキルを加えて、活躍の幅を広げている中山さんに、これまでのご経験や今後の展望などをお伺いしました。

【プロフィール】
株式会社アクセラ 代表取締役CEO
合同会社てにをは CSO(Chief Strategy Officer)
https://teniwohajp.com/
株式会社カクシン CPO(Chief Passion Officer)
https://www.srv-lab.co.jp/

京都府生まれ。法政大学経営学部にて「ベンチャー経営学」を専攻(「ベンチャービジネス」という概念を日本に紹介した清成忠男元学長のゼミに所属)。
メガバンク系リース会社を経て、帝国データバンクに16年間在籍。同社では社内コンサルティング部門の立ち上げに関与し事業化を推進した。
2018年に同社を退職し、「合同会社てにをは」と「株式会社カクシン」それぞれの経営に参画し現在に至る。
プライベートでは、サウナをこよなく愛する「サウナー」。

(資格)
ハーマンモデル・HBDIファシリテータ
Gallup認定ストレングスコーチ®
一般社団法人日本パートナーCFO協会認定パートナーCFO®
公益社団法人日本サウナ・スパ協会認定サウナ・スパ健康アドバイザー

人にフォーカスする仕事、組織や仕組みにフォーカスする仕事

中山さんは、現在2つの会社の経営に関与されていますが、それぞれどんな会社でしょうか。

2社とも、クライアントが抱えている人と組織に関する課題の解決を支援する会社ですが、「合同会社てにをは(以下、「てにをは」)」は人にフォーカスし、「株式会社カクシン(以下、「カクシン」)は組織の構造や仕組みにフォーカスした会社です。

具体的には、「てにをは」では主に人と組織の強みの発揮に着目した組織変革の支援を行っています。自社の組織や風土について課題認識がある経営者や経営幹部とみっちりミーティングしながら、役員や経営幹部などをファシリテートして組織や個人の変革を促していきます。人にフォーカスしているので、心理学の知見も応用しながら進めますし、採用や教育などの変革も対象になります。

「カクシン」の方は、現場がきちんと成果を出せる仕組み作りの支援を行っており、足元では営業コンサルのニーズが高いです。会社の規模感では、東証マザーズ上場企業のほか、上場に準ずる規模の会社や上場準備中の会社のように勢いがある会社からのご依頼が増えています。
経営者・経営幹部とは方向性やゴールなどについてミーティングはしますが、主に現場が対象になります。たとえば、営業研修やトレーニング方法の改善、営業体制の見直しなどです。

誰かのやりたいことをサポートしたい

2社とも中山さんが単独トップというわけでなく、他の経営パートナーの方と組んで経営に携わっているようですが、それはなぜでしょうか。

サラリーマン時代から感じていたことですが、私自身が「これをやりたい」と旗振りをするよりは、「誰かがやりたいことを形にする」支援の方が、私の性分に合っています。
誰かがやりたいことに対して、私が「促進する」「形にする」「勢いをつける」「拡張させる」というようなことに、私の強みが発揮できると思います。ですから、2社ともCEOの立場の人がいまして、そのCEOがやりたいことに共感してジョインしています。

労力や時間の配分でご苦労されることはないですか。

2社にジョインしたのは、2018年に帝国データバンクを退職した後、ほぼ同時期でした。最初の頃は自分の中でバランスと優先順位をつけるのはとても難しかったですね。
他の経営陣とは雇用関係にあるわけではなく、フラットなパートナー関係です。つまり、誰かと従属関係にあるわけではなく対等な関係なので、これを一緒にやろうと合意し、日程やフィー配分などを決めていくので、自分に裁量権があります。
そんなやり方に慣れていくと、どこに自分の労力を重点配分するかは自分の裁量次第ということになり、そこに気が付くと苦労はしなくなりました。2社の業務範囲が重なっていないことも大きいですね。

【コロナ以前、サウナ帽をかぶって「ととのいセミナー」での一コマ】

日本に「ベンチャービジネス」を紹介した先生のゼミ員 

人と組織のビジネスに関わるようになった経緯をお伺いする前に、大学時代に専攻された「ベンチャー経営学」のことをお伺いできますか。

日本に「ベンチャービジネス」という概念を日本に紹介した清成忠男先生(注1)のゼミに入りたいと思い、法政大学の経営学部を受験しました。

(注1)清成忠男氏 (出所:アマゾンの著者紹介)
「ベンチャー・ビジネス」という概念を世に送り出した企業家研究の第一人者。1956年東京大学経済学部卒業。1973年法政大学経営学部教授。1976年法政大学総長・理事長(2005年まで)。法政大学学事顧問。東京大学や京都大学、北陸先端科学技術大学院大学などの講師、財団法人大学基準協会会長、沖縄振興開発審議会会長、中央酒類審議会会長などを歴任。『日本中小企業の構造変動』(新評論)、『地域主義の時代』(東洋経済新報社)、『日本中小企業政策史』(有斐閣)等著書多数。

中学や高校の頃からベンチャービジネスや企業経営に興味があったのですか。

実は私の曽祖父が創業した会社があり、今年で創業100年になります。親族で経営していますので、子供の頃から経営を間近で見てきたこともあり、将来は経営者になってみたいとは思っていました。その会社以外の経営者ですが。

高校の頃の話ですが、祖父はなぜか次男の息子である私を五代目社長にしたかったらしく、顔を合わせるたびに「五代目やれ」と言われていました。
家業を継ぐつもりは全くなかったのですが、自分で経営することには興味があったので、それをもとに志望校を探しました。

お祖父さんは、中山さんの経営者としての資質を見抜いていらっしゃったんですね。慧眼です。清成ゼミではどんなことを学びましたか。

清成先生(当時は法政大学総長)の口癖は、「ベンチャー企業は、まずは大きな企業に勤めてからスピアウトして始めるのが一番成功率が高い」でした。勤務経験なしに起業するなということでしたが、なるほどと思いましたね。

事業承継とは「人の話」

清成先生の助言通り、卒業後は大企業に就職されたんですね。

最初にメガバンク系のリース会社に就職し、その後帝国データバンクに転職しました。
帝国データバンクはご存知の通り、国内最大手の企業信用調査会社で、全国に調査員を配置し、日本中の経営者の話を聞いています。ですが、経営者の悩み事や困り事を解決し提案する機能がありませんでした。

そこで、新規事業としてコンサルティング事業を立ち上げることになり、そのチームの一員になりました。具体的には、コンテンツ、営業手法、集客環境などを作り事業化を進めました。加えて、社員コンサルタントとして実際のお客さまに対する経営支援も数多く経験できました。

これらの仕事を通じて全国の経営者4,000人ほどと会ったのですが、そこでわかったのは経営者の悩みの多くは「ヒトと組織とコミュニケーション」の問題であったということです。地方のお客さまから、よくご相談いただいた事業承継についても、実は「株式や資産の承継の話」ではなく、問題の本質は「人の話」がメインだったということです。
現社長が困っているのは後継者のことであり、後継者が困っているのは右腕となる幹部のこと、幹部が困っているのは中間管理職のマネージャーや現場のリーダーのことなんですね。

寝たきり生活の中で考え続けた「人とは何か」 

帝国データバンクの新規事業を順調に伸ばしていた矢先に、難病に罹りました。

2008年にギランバレー症候群(注2)を発症し、8ヶ月間寝たきり状態になりました。

(注2)ギランバレー症候群(出所:Doctors File)
体の各部分に分布する末梢神経の障害により、四肢や顔、呼吸器官に麻痺などが起こる疾患。年間で10万人に1、2人がかかると言われている。四肢の筋力低下、脱力感やしびれ、痛みなどの症状が、左右対称に現れる。顔面神経麻痺や嚥下障害といった脳神経障害、頻脈、起立性低血圧などの自律神経障害が起こることもある。重症例では麻痺が進んで歩行障害を起こしたり、人工呼吸器を要する呼吸困難を生じたりすることもある

首から下が全く動かせない状態になり、最初の頃は人生のことも仕事のことも全く何も考えられない状態でした。
それでもリハビリをしていく中で、「どうやって職場復帰をしようか」と考えたときに、頭と口しか使えない自分は元通りの仕事はできない。そうすると、「人を動かすマネジメント力を体得しなければならない」、「そもそも人とは何なのか」というように、ますます「人」のことに関心が行くようになり脳科学や心理学など人に関する色んなことを勉強しました。

大変なご苦労をされたんですね。幸いにも寝たきりを脱して健常者の状態に復帰されたわけですが、病気の前と後ではご自身の中で変化したことはありましたか?

人生観や価値観は大きく変わったと思います。病気の前は「自分自身が、何ができるのか」が最大の関心事項だったのが、病気の後は「自分が組織に対して何ができるか」に変わりました。

たとえるなら、病気の前は「個人で結果を出す昭和の猛烈サラリーマン」、病気の後は「チームで結果を出すことが重要で、自分はその構成要素の一つにすぎない」という感じでしょうか。

クライアントが自走できたら、コンサルティングは卒業でいい 

私がやっている「人と組織に関するコンサルティング契約」は、どこかで卒業があってしかるべきと考えています。一旦卒業して会社のステージが上がり、これまでとは違う経営課題が出てきたときにまた声をかけて頂ければいいと思っています。

いわゆる「自走する組織」になったら、一旦はコンサルティング契約終了ということですね。それでは、卒業の目安は何でしょうか。

その会社の経営者や社員が「変化を感じられたか」だと思います。
たとえば、自分たちで手応えを感じた、自信がついた、自分たちだけで回せて行けそう、等。
それらが感じられるまで、半年とか1年かけてぐっと組織のステージを引き上げるのは私たちの得意とするところです。

しかし、組織の中に「湿った薪」が入っていると、自走する組織を作ることはかなり難しいです。
その方が過去にどんなに貢献し、どんなに役職が高かったとしても、周囲に火をつけない「湿った薪」であれば、その方はチームから外した方がいいですし、経営者の方に明確に伝えます。「湿った薪」を排除するのは経営者の方にしかできないので。

ジム・コリンズが「ビジョナリー・カンパニー2」で主張している「バスの目的地より、誰をバスに乗せて誰を降ろすかの方が重要」と似ていますね。「湿った薪」とは、具体的にはどんな人でしょうか。

「変化したくない」、「しがみつき」、「年下が成長することを望まない」、「積極的に参加しない」、「どこか斜に構えている」、「ネガティブな発言しかしない」などです。

コンサルティング期間中は関係者の方々と面談をしますが、私はその方の感情の振れ幅をよく観察するようにしていますので、「この人は本音で話していない」などはよくわかります。

歴史ある企業ほど、「湿った薪」はたくさん居そうですね。

もちろん、最初はいろんな薪が混ざっています。湿っていたけど周囲に感化されて乾燥する人もいます。そんな人たちと伴走しながら、変われる組織にしていくのが私たちの得意とするところです。

養成塾の最大の成果は”学び直し”ができたこと 

パートナーCFO協会のことも伺いたいのですが、養成塾に入った理由は何ですか。

これまでの私の経歴の中で事業承継やM&Aには携わってきましたが、CFO的な動きはあまりしてきませんでした。M&Aで言えば、売買の値決めは勿論重要ですが、結局は経営者同士の合意であり人の問題だ、と思っていました。

そんな中で、自分の補強ポイントは何かなと考えたときに、人だけに偏るものよくないし、おカネのことも鍛えた方がいいのかなと思いなおしました。これまでの私の仕事を振り返ってみると、経営者と様々な専門家の間を繋ぐ通訳の役割を担ってきました。
この意味で財務面を体系的に学び直す場があったらいいなと思っていたところに、以前から知り合いだった高森さんが養成塾をやっていると聞いて、門を叩きました。

M&Aで実績を積まれているのに敢えて学び直しをすると決意されたのは凄いと思います。

タイミングも合ったのだと思います。経営者と対峙し「あなたは何が出来るんですか?」と問われたときに、私がどれだけのカバレッジを持っているかはとても大事なことだと意識し始めた頃でした。

受講された感想はいかがですか。

CFOの講座だからといって財務に偏っているわけでもなく、ベンチャー企業や中小企業という全体感の中でCFOの位置付けはこうだというように、必ずまず全体感を示した中での個別の専門性の話に繋げていたので、体系的な学び直しができて良かったと思います。バランスがとてもよい講座だったと思います。

【P-CFO養成塾2期での様子】

人・組織分科会でやりたいこと 

パートナーCFO協会の中の活動では、「人・組織分科会」というものを立ち上げようとされてますね。どういったものになるのでしょうか。

分科会を立ち上げたのは、私が財務面を補強したように、財務のスペシャリストの方々は「人と組織」に関して補強できた方がいいと思ったからです。
経営者から財務面の相談を受けている方々が、「私は人と組織の相談も対応できます」と発信する、あるいはご自身ができなくても専門家につなぐことができる。このようにご自身の引き出しをたくさん持つことは大きな武器になると思います。経営者としては、社内の人間には人の話をしづらいですから。

ところで、財務の専門家が経営者から人や組織に関する相談を受けるためには、スキル以外に何が必要でしょうか。

大前提としては、人に関心を持つことです。
たとえば、その会社の状態を分析する際にKPIや決算等の数値だけを見るのではなく、その数値を積み上げている人の動きに関心を持てるかどうか。
「売り上げが下がってるから、上げなければならない」となったときには、現場で売り上げを作っている人の動き方変えなければなりません。

現場で何が起きているかわからなければ評論家になりかねません。どうしてその数値になるのかをリアリティを持って語れるかが重要で、これは経営者もコンサルタントも同じです。

中山さんのこれまでの経験やスキルを伝授いただく場になるのですね。楽しみにしています。

個人会社を設立し、人と組織の両方を促進する 

これから新たにやりたいことなどがありますか。

11月に私個人の会社を設立しようと思っています(注3)

(注3)取材日は10月23日

これまで「てにをは」と「カクシン」の経営をやってきましたが、どうしても話し合いながら意思決定をしなければなりません。つまり、自分がやりたいように100%できるわけではありません。
そこで、私一人で意思決定ができる組織を作る準備をしています。

それはいいですね。どんな社名ですか。

「株式会社アクセラ」という名前です。
人を促進する、組織を促進するという意味を込めて、アクセラレータを元に私がアクセラという造語を作りました。

どのような業務を考えていますか。

「てにをは」と「カクシン」の両方の良いところをミックスします。
人だけでもダメだし、組織の構造や仕組みだけ整えても会社は動きません。しかも、会社の成熟度の段階によって何に比重を置くかは異なります
両方のバランスを取りながら、私独自のコンテンツも投入していく形になると思います。

3つの会社を使って、人と組織に関するコンサルティングを深めていくということですね。人と組織に悩みを抱える経営者たちのためにも、成功をお祈りしています。

(編集後記)
中山さんは普段から笑顔を絶やさない、柔らかい印象の方です。ギランバレー症候群という難病を克服した自信や強さも、笑顔の背景にあるのかもしれません。

インタビューでは、「促進」「アクセラレート」という単語が何度も出てきました。クライアントとご自身の「促進」に拘り続ける中山さんは、新会社「アクセラ」を通じて笑顔になるクライアントを増やしていけると強く思いました。

<取材・文>第2期生 森本哲哉
取材日:2021年10月23日