2021年12月31日

P-CFO 中村 美由紀さん

経営企画・経営管理の仕事に直結。さらに、将来のキャリアの選択肢でもあるパートナーCFO

中小企業診断士・パートナーCFO
中村 美由紀(なかむら みゆき)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第3期生(2020年6月~11月)の中村美由紀さんです。
パートナーCFO養成塾を受講される方の中には、企業で働きながら副業を視野に受講される方も増えてきています。今回は、その先駆者でもある中村さんに、企業内の仕事や“複業”での変化、今後の展望、そして企業内の特にどんな方におすすめか、などご経験を踏まえてお伺いしました。

【プロフィール】
大阪大学法学部、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科卒。
NTT勤務後、ソニー株式会社で経営管理・経営企画・新規事業開発を担当する他、社内複業として学びと成長の場づくりの企画を担当。ビジネスプロセス構築からワークショップデザインまで、幅広いフィールドで実践とリサーチを行う。ラーニングコミュニティ「Project MINT」にコミュニティマネージャーとして参画。
現業でも力を発揮しながら、大学院や中小企業、NPO法人など他のフィールドでも活躍している。

(Project MINT)
事業内容:ライフシフトに取り組む大人の学びの場(ラーニングコミュニティ)として、「今の時代に生きる大人にとって本当に必要なラーニング没頭体験」をコンセプトに、会社員や複業といった自分らしい多様な働き方を目指す方をサポートしているプロジェクト。
「自分が存在する意味、生きがいを知り、共感するヒトと繋がり、変革への行動をする“大人の自己革新プロジェクト”をミッションとしており、MINTは(Meaning、Ikigai、Network and Transform)の頭文字から。
URL:https://www.projectmint.net/

フルタイムで経営企画・経営管理をしつつ、“複業”で多様な組織へ貢献

中村さんはフルタイムで働きつつ、社外の様々な活動に精力的に取り組まれています。養成塾の受講中には複業を本格的に始めるとお聞きしていました。まずは、今のお仕事について教えていただけますか。

今は、企業で経営企画経営管理の仕事をしていて、複業として診断士の活動として事業再構築補助金の申請の手伝いをやっていたりします。

社外での活動は以前からプロボノ(注1)的にしていましたが、ちゃんと事業としてやろうかなと思い始めたのがちょうどパートナーCFO養成塾と同じタイミングでした。実際に、P-CFO養成塾受講中2020年10月会社に副業届を提出し、本格的に開始しました。親会社のソニーでは複業している人が結構いるのですが、私が今出向してきている子会社では制度がある者の活用している人はまだいなかったので、私が第1号になりました!

ちなみに、会社では「副業」という扱いですが、個人的にはどれも本業と思って取り組んでいるので「複業」という表現を好んで使っています。

(注1)プロボノ(Pro bono)(出所:Wikipedia)
各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般。または、それに参加する専門家自身のこと。

複業としては、NPO法人にも関わられているとか?

そうですね。NPO法人の経営相談に乗ったり、大学院に通った関係で、大学院の研究員として活動していたりしています。他にもプロボノ的にコミュニティのマネージャーをしていて、スタートアップのコミュニティの立ち上げの支援に携わったりしています。

フルタイムで働いているとは思えないくらい、多種多様ですね!

【大人のためのラーニングコミュニティ「Project Mint」の理念に共感し、コミュニティマネージャーとして参画しています】
【Project MINT主催リパーパスツアーでのレゴワークショップ風景。リパーパス=自分の価値観、ビジョンを言語化するためのプログラムです】

「変化があって面白い」経営管理・経営企画の仕事

経営管理や経営企画としてのキャリアは長いのでしょうか。

キャリアで言うと、最初はサービス企画を10年ぐらいやっていて、そのあと7年ぐらい事業戦略をやっていて。そこで丸2年育児休職を取って、復職するタイミングで経営管理担当になりました。
数字を扱う管理会計をやるようになり、もう10年になります。連結管理とか、新規事業系の立ち上げとか、そういう経営全般に関する仕事を経て、今はソニーの子会社に出向しています。ここでは、経営管理も経営企画もやっています。

なるほど、そもそも経営に関心があったのか、流れで来たのかでいうと…後者でしょうか。

はい、まさに流れに乗ってきて経営に関する仕事をしているという感覚です。
もともとやりたかったのはNTTでもやっていたサービス企画で、ソニーに転職する時も、サービス企画に近いポジションで試験を受けたのですが、「事業戦略もどうか」という話になって、事業戦略に行き、そこからはずっと経営に関する仕事をしていますね。

復職のタイミングで経営管理になったのは、ある意味偶然というか戻る先がそうだったっていう話ですが、経営管理も経営企画にしてもいろんな変化があるから、やっていて飽きないし、変化が常にある環境のほうが好きだし、この仕事は肌があうなと思っています。

この経営企画にいる間に、中小企業診断士の資格も取得されていますね。

はい。経営管理をやっている同僚が中小企業診断士を取ったのを見て、いいなと思ったのがきっかけです。自分が普段仕事でやっていることに近い内容で、知識の棚卸にも良さそうだと考えて受験し、2016年に合格しました。

経営管理にも活きる、システムデザイン・マネジメントの考え方

診断士合格後は大学院に行かれていますが、これはどんなきっかけがあったのですか。

自分が行った大学院、慶應義塾大学大学院SDM研究科のことは、友人から教えてもらい、2011年頃から知っていました。
もともと、いつかどこかのタイミングで大学院に行きたいって漠然と思っていたんです。大学院で学ぶ内容として、本業と一番近いのはMBAですが、「今更MBAじゃないな」という思いもあって。
SDMにしたのは、「これがすごく、仕事に役に立つとか、ステップアップするから」というよりは、純粋に「学びをもう一度やってみたい」という気持ちがあったから。学び直し、という感覚ですね。

フルタイムで働きながらの大学院生生活。大変だったと思いますが、特に印象に残っていることは何でしょうか。

そうですね、大変だったけどすごく楽しかったですね。大学生のときの学びと違うなと思ったのは、習ったことをすぐフィールドでやってみることができること。社会人ならではの学びの楽しさかなと思います。

大学院では、いわゆる新規事業開発や、イノベーティブなデザインがテーマで、実際に企業からのプロポーサルを受けて大学院のチームで新規事業を開発したり、実際にコンセプトやプロダクトのプロトタイプを作り、イタリア・ミラノで毎年開催される世界的なデザインウィーク「ミラノサローネ(正式名称:ミラノサローネ国際家具見本市)」に出展したりしました。

社内でも新規事業の部門はあるものの、会社ではなかなかできないチャレンジも多く大学院でやってみることができて、どれもすごく貴重な経験になりました。

実際に大学院へ行ったことで、そのあと人生の選択肢がこう変わった、ということは何かありますか。

劇的な変化、というほどではないかもしれないですが、「これまで意識せずやっていたことを“ちゃんと意識してできるようになった”」という感覚がありますね。
システムデザイン・マネジメントって物事をシステムとして捉えるという形で、全体的な俯瞰も大事だし、部分部分の組み合わせも大事「木も見て森も見る」というように両方をやっていくので、実務の中でも意識するようになったかなと思います。

たとえば会計、管理会計でいうと、全体感としてどうかという話と、部分として、たとえばこの事業部はどうか、ここの変動費はどうか、というのを両方見ながら良い仕組みを作っていく、というような感じです。いろんな物事を「組み合わされたシステム」として捉えて、それがうまく動く仕組みにするためにはどうしたら良いか、ということをすごく意識するようになったと思います。

【ミラノサローネに出展したのは、 “ハグ”を送りあうコミュニケーションデバイス。モフモフした球体で、癒しの存在感があります】

今後のキャリアの選択肢の一つとして「パートナーCFO」の道へ

今回パートナーCFO養成塾を受講した一番のきっかけは何ですか。大学院での学びを終えるタイミングということも関係していますか。

そうですね。2年間は大学院以外のことはまったくできなかったですから。大学院が終わって、もう少し本業に近く、実業に近いことをやるのも良いかな、と思ったのがパートナーCFO養成塾受講の動機です。
今の本業にも役に立つし、今後の将来的な展開にも役に立ちそうだなと思ったという感じです。

もともと経営管理、経営企画として経営陣のスタッフとして働いているので、今後のキャリアの展開を考えたときに、方向性としてパートナーCFOっておもしろいなって思ったし、活動エリアとして充分あり得るなと思ったので、受講しました。

なるほど。養成塾に特にどんなことを期待していましたか。複業にすることも、当初から想定されていたのでしょうか。

将来的にパートナーCFOを複業にしたいっていうことと、あとやっぱり繋がりですね。同じようなところを目指している人の繋がりがほしいと思っていました。
これまでの経験上、人のご縁いい話が来ることがすごく多いなと実感しているので、そういうことを目指している人のところに行くのが一番手っ取り早いし、何か始めてみたいのならまず繋がりを作ることが大事だと思っています。

コンセプトが明確なパートナーCFO

中小企業診断士とパートナーCFOの両方を学んでみて、また最近では複業も始めてみて、どんな違いがあると思いますか。

パートナーCFO体系だっているし、コンセプトが明確ですよね。診断士としての強み個人で異なるので、診断士というだけでは周りの人に何ができるのかわかりづらいかなと思います。また、診断士は一般的な中小企業が対象であるのに対して、パートナーCFOこれからスケール大きくなっていくベンチャー中小企業の中でも特に成長志向があるところを対象にしている感じが違うなと思います。

私は変化を面白いと思うので、正直なところ、診断士の仕事には「変化」というイメージが少なく、活動していませんでした。ただ、今年度始まった事業再構築補助金新しく事業を興すところに関われるので、個人的に面白いなと思って申請に携わっています。実際に補助金申請に関わる中で、中小企業の支援に関わるイメージもつかめてきました。パートナーCFO的に働けているかというと、まだまだこれから…というところではありますが。

社内ベンチャーや新規事業に携わる人も押さえておきたい、CFO8マトリックス®

中村さんのように企業内で経営企画を担当する人に、パートナーCFO養成塾はおすすめですか。

大企業勤務でも、特に社内ベンチャーのメンバーや、子会社に出向している方にはおすすめですね。私がまさにそのパターンですが、私がやっている内容まさにCFO8マトリックスの内容と同じ。ァイナンス以外は何かしら関わりがある分野になります。規模が小さい組織では一人でいろんな役割を担わないといけない場面が結構あるので、そういう人にはすごく向いていると思います。

【CFO8マトリックス®】

大企業では、社内で新規事業ベンチャーを立ち上げるケースもありますが、立ちあげたら持続して運営していかないといけないのですよね。その時に会社の経営で必要な役割が分かっていると、自分はこのような業務をやる必要があるとか、誰がどの役割をやるべきか、といったことを考えられます。そういう視点を持てるという点で、役に立つのではないかと思います。

また、ソニーに限らずホールディングス化に取り組む企業が増え、子会社化も増えています。そうした場面では、企業内にいながらパートナーCFOの役割やらざるを得ない人もいると思います。となると、企業として社内でパートナーCFOのような人材を育てておきたい、というニーズもありそうだなと思います。
大抵の場合は親会社の人材で対応されていると思いますが、それでもやっぱり、企業内での経営者育成というか、は、あっても良いかなという気がします。社内ベンチャーや新規事業が立ち上がったあと運営していく過程で必要なことは、ベンチャー企業が徐々に大きくなっていく際に必要な項目とほぼほぼ一緒経営者の補助を担う人が押さえるべき内容の講座のはずなので。

実は今、新規事業ビジネスコンテストに事務局として立上げに関わっています。そこで、各社がどんなアクセラレーションプログラムをやっていて、どんな伴走形式があるかなど調べていますが、やはりアイディエーション(注2)を事業化するためのモデルが多く、事業の立ち上げまで、を範囲としているものばかりなんですよね。事業化や、独立会社として推進していく際についての良いプログラムって、あまり聞かないです。新規事業を立ち上げた後、事業として運営していく中で、CFO8マトリックスの内容が必要になってくるので、アクセラレーションプログラムの中にあっても良い内容だと思います。

そんな風に、独立パートナーCFOだけじゃなくて、企業内パートナーCFOのニーズもまだまだありそうだなと思います。

(注2)アイディエーション(ideation)
アイデアを発想し、出し合い、精査していくこと。

なるほど。大企業の新規事業や子会社の実態を知る中村さんならではの視点ですね。興味深いです!

事業統合の場面でいい成長戦略を描いていきたい

今の会社でやりたいことや今後の展望、そして野望などもあれば教えてください。

今いる会社では事業統合をやっている真最中です。元々は営業会社だったところに親会社の事業の一部を移管して、2019年7月に事業統合しました。BPR(Business Process Re-engineering)ビジネスプロセスをマージすることに取り組んでいています。システムも組織もバラバラなところを統合していく、まさにPMI(Post Merger Integration)を今やっているところですバラバラだった2つの事業をどうやって会社として成長させるか、というフェーズなので、ここで良い成長戦略を描いていけたら良いなとは思いますね。これは1人だと経験できないことでもあるので。 

それから、個人的な野望というと「社外取締役」に興味があります。
ずっと経営のサポートの仕事をしてきたスキルを活かしたいなというのがあって。自分が経営側に回るということにも興味がありますが、経営のサポートというところでキャリアアップしたいなって思っているので、社外取締役をやってみたいと思っています。先日高森さんの社外役員育成の講座「女性のメンターとして役割もある」と聞いて、ますます興味を持ちました。

やっぱり「経営」ってすごくおもしろいなと思うので、そういう場面にずっといたいなというのはありますね。
いろんな変化がある中どうやってその人だったり物だったりいろんなものが活きる環境だったりシステムというのを作っていくか経営だと思うので、どんな立場であっても、ずっと関わっていたいなと考えています。

【休日は素敵な空間でリフレッシュ。本と温泉と料理を堪能できる「箱根本箱」はお気に入り】

変化のある環境で、自分が楽しいことに注力して働いたり遊んだり生きていきたい

キャリア以外のプライベートで達成したい夢や、「こういう生き方をしたい」というのはありますか。

私はもともと目標を決めて、それに向かって頑張るっていうタイプじゃないんです。どちらかというと展開型で、「なんかおもしろそう」ってフラっと行ってみて、そこで何かまた何かあってフラっと次へ行く、そんな感じできているので、たぶんこれからもずっとそうだと思います。
私はずっと同じことを繰り返すっていうのが本当にダメなんです。
その代わり、変化があるところや新しいこと、ちょっとでも良くなることすごく楽しめるので、何かしら変化があって、何か新しいなと思えることができる環境に入れたら良いなと思います。

ロールモデルにしている人は色々いますが、一人挙げるなら楽天大学仲山進也さん、通称がくちょ(注3)です。
私とタイプは全然違いますが、仲山さんも組織に属しているけど、本当に自由にいろんな活動をされていて、ああいう組織にいながらも自分自身がやりたいことにコミットすることで結果的に組織にも貢献している形がすごく良いなって思っています。なので、仲山さんのように、「遊ぶように働いている」というか、「自分が楽しいなとかやりたいなと思うことに注力して働いたり遊んだり生きたり」できたら良いなと思いますね。

(注3)仲山進也氏(出所:仲山氏公式note)
仲山考材株式会社 代表取締役/楽天株式会社 楽天大学学長。創業期(社員20人)の楽天に入社。楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

今回は、企業内のパートナーCFOの在り方についてもヒントを頂きありがとうございました。

(編集後記)
中村さんのお話を聞いていると、組織人の枠にとらわれることなく、仕事もプライベートも本当に楽しそうにされていて、本当に刺激をもらいます。これからも軽やかに、自由に活躍されていく姿を楽しみにしています!

<取材・文>第2期生 溝上愛
取材日:2021年11月17日