2022年4月27日

P-CFO 若尾 房市さん

過去を見える化し、未来をプランニング
MBA×税理士×P-CFO

若尾房市税理士事務所 代表
若尾 房市 (わかお ふさいち)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第4期生(2021年6月~11月)の若尾房市さんです。
税理士として独立すると同時にコロナ禍に見舞われるという不運にもめげずに、着実に実績を積まれている若尾さんのこれまでのお仕事やこれからの税理士のあり方、そして将来の野望まで伺いました。

【プロフィール】
若尾房市税理士事務所 代表
https://www.financial-office.jp/

岐阜県生まれ。中央大学商学部卒業後、東京・名古屋にて税理士法人に勤務。税理士法人勤務の傍ら、名古屋商科大学ビジネススクールにて税理士資格とMBAを取得。
2020年4月、東京で若尾房市税理士事務所を開設。【心躍る経営の共創】をミッションに掲げ、「MBA(経営学修士)の分析・問題解決能力」「税理士の税務・財務管理能力」を備えた税務ができるパートナーCFOとして活動している。
趣味は、少年マンガ、新日本プロレス、堤防釣り

(資格)
税理士
MBA(名古屋商科大学ビジネススクール)
プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)
認定パートナーCFO®(日本パートナーCFO協会)
認定経営革新等支援機関

コロナ禍での事務所開設

まず、若尾さんの現在のお仕事についてお伺いします。税理士法人勤務の後、コロナ禍の中に独立されましたが、やはり経営的には大変でしたか?

事務所の開設が2020年4月でしたので、まさにコロナ禍とともに開業といった感じでしたね。
独立する前は、ビジネス交流会や経営者の方々が集まるような場に出かけて行って人脈を広げてクライアントを獲得する、みたいなことを思い描いていました。

ところが、コロナ禍でそのような交流の場が全部なくなってしまったので、最初はクライアント獲得に大変苦労しました。どこでクライアントに出会えるんだろうかと。

そんなときに、税理士法人勤務時代に担当していた会社の社長さんが「若尾が独立するなら任せたい」と仰ってくださいました。そして税理士法人の代表とも掛け合ってくれて、かなり異例でしたが私のクラアント第一号になっていただきました。

その社長さんは若尾さんの仕事ぶりをかなり高く評価されていたんですね。

その会社とは長い付き合いなので、会社の中身がよくわかっていることが評価につながったのかなと思いますが、クライアントになっていただき大変有難かったです。
そしてその会社からさらに紹介をいただいたことを契機に、クライアントを徐々に増やしていきました。

クライアントはどのような業種が多いですか。

全て中堅中小企業で、建設業、サービス業、不動産業、ソフトウエア業などさまざまな業種です。

【2022年3月、中央区・茅場町にオフィスに移転。業務拡大に向けた環境が整っています】

税理士は過去を見える化、MBAは未来をどうするか

若尾さんのホームページを拝見すると、「MBA」、「黒字経営」、「行動経済学」の3つが目につきます。まずMBAについてお話いただけますか。

税理士資格を取るときに名古屋商科大学ビジネススクールに通いました。税理士試験というと、5科目の合格が必要ですが、そのうち2科目は修士論文を書くと科目免除にできるのです。そこではさらにプラスαで頑張るとMBAも取れるコースがあったので、ついでのつもりでそれを選択しました。実際にMBAの勉強を始めてみると結構面白くて。
平日は仕事、土日はビジネススクールとかなりハードな日々でしたが、MBAも同時に取得できて仕事にもとてもプラスに働いています。

税理士の仕事は、ずっと過去を追って、過去の結果を財務諸表に落とし込んで税務署に申告することがメインで、私は約20年間それをやってきました。言わば過去の見える化です。

ところがMBAでは過去は過去で参考にしますが、未来に向かって未来をどうするかという考える人がほとんどだと気づきました。

税理士法人での仕事では主に過去を見ながら仕事をしてきたので、MBAの勉強で視野が広がり、未来を考えることに面白さを感じるようになりました。
そこで、経営学や管理会計などの勉強をさらに深め、仕事にも生かしているところです。

ビジネススクールに入るまでは、経営についてはあまり興味がなかったのでしょうか。

そうですね。大学卒業後に税務の業界に入ってからは、税の世界での専門家をめざし、とにかく税務を究めようとやってきました。
税務会計は法人税の申告書を作るための会計です。そこでは経営というより、いかに税額を少なくして、間違いのない申告をするのか、といったことばかりを考えてきました。

黒字経営を目指す中小企業経営者をサポートしたい

税理士として「黒字経営をサポート」と打ち出している理由は何でしょうか。

これは、黒字経営をして会社を成長させたいというクライアントとお付き合いしたい、という私なりの宣言みたいなものです。

税理士というといわゆる「守り」に強い存在というイメージがあるかと思いますが、私の事務所では法人へのサービス提供に特化していて、税務・財務という「守り」の部分のみならず、ビジネスモデルの磨き上げ、モチベーション高い組織の構築など経営における「攻め」の部分もサポートしています。

我々税理士に支払う顧問料は、会計チェック料や税務申告料といったいわゆる手数料ととらえられがちです。そうではなく、会社成長のための戦略費と思ってもらえるような仕事をしていきたいと強く思っています。

行動経済学を活用

行動経済学の考えを取り入れているそうですが、具体的にはどのようなことをされてますか。

行動経済学もビジネススクールで学びました。「人間は完全には合理的ではない」という前提から始まり、「人間であるからには感情の影響がどうしてもあり、感情に影響されるが故に合理的な判断ができるわけではない。この不合理な判断をどうコントロールしていくか」という学問です。

経営者の方々に対して、エクセル等を使い客観的合理的に数字を作って説明しても、感情を優先させて決断される場面を見てきました。『言っていることはわかるが、感情的に受け入れられない』『その選択を取るのは嫌だ』と一見不合理な行動に思える時に、その根底にあるのは感情です。そこで、行動経済学の考え方を経営者との面談に取り入れたら、もっとうまく説明出来たり、経営者がより納得して動けるのではないかと考えて、行動経済学や心理学を勉強しています。

養成塾で最も役立ったのは、コーチング

P-CFO養成塾に入ろうと思ったきっかけは何でしょうか。

クライアントの会社経営に役立つことができるように勉強したり、本屋で書籍を探す等していたのですが、あまりに色んなことに手を出した結果まとまりがなくなってしまいました。

知識が体系化されていないと感じていた時に、高森さんの「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」を読んで、私がやりたかったことをまとめるとこんな感じになるんだろうなとイメージがつきました。
高森さんのメルマガも登録して、それから養成塾に申し込みました。

印象に残っている講義はありますか。

養成塾全体に関しては、CFOの役割が「攻めのCFO」として、財務だけでなく経営戦略にも範囲を広げるという点ですね。

一番印象に残っているのはコーチングです。
コーチングというものを教えて頂いて、経営者との面談のやり方を考えるきっかけになったので、このパートは私の中で最も大きな変化が起きたところだと思います。

本格的にコーチングに触れたのは初めてだったんですか。

コーチングの本は読んだことはあったので、概念的なものはある程度分かっていましたが、それをどのように実践に移せばいいのかは全くわかりませんでした。

養成塾では受講生がお互いにコーチ役をやるというセッションもありました。
なかなか上手くできなかったのですが、この練習をしていけば経営者との面談のあり方も変わっていくという手応えを感じました。

【養成塾では東京リアルクラスに参加。バックグラウンドの異なる仲間とのディスカッションは刺激的です(若尾さんは右端)】

経営者の会社の将来像・考えを引き出して整理

経営者との面談では、P-CFO養成塾の受講前後では具体的にどのように変わりましたか。

以前は「これはこうなんですよ」という先生が生徒に教えるような言い方が多かったように思いますが、受講後は質問を多くするよう心がけています。
そして、できるだけオープン・クエスチョンを使うようになりました。

経営者に試算表を見せながら過去の数字をああだ、こうだと説明してもあまり面白くないんですよね。
聞いている経営者も、「ああ、その通りですね」くらいの反応ですし。

ですから、経営者が考えているこの会社を将来どうしていきたいのかということを引き出して、頭の中を整理するお手伝いをした方が、お互いに有意義な時間を過ごせると思うようになってきました。

税務だけの状態を卒業して未来をプランニングしたい

独立されてちょうど2年経ちましたが、今後の展望は何かありますか。

足元の事務所経営でいうと、クライアント数はそれほど多くないものの業務ボリュームが十分あり回っています。
ただ、見方を変えると少数の会社に依存しているような状態です。これはあまり自分が望む状態ではないので、少しずつクライアントの数は増やしていきたいです。

ただクライアントを増やし過ぎて、経営者サポートが手薄になってしまう事態は避けたいですね。また私個人は、最終的には税務だけの状態から卒業したいので、将来的には税務を任せることができる人と組んで仕事ができればいいなと考えています。

税理士法人勤務時代から税務に約20年携わっていますが、日常の税務の大半がルーティンで、税務を深く学んでもその知識を活かせることは滅多にない、というのが実情です。また、間違えないのが当たり前の世界なので、定型的な税務を行うだけで特別感謝されるものでもありません。
だからこそ、税理士としてクライアントにもっと価値を感じてもらえるよう模索しています。例えば、税務の中でもM&Aや事業承継などは「未来に向かってのプランニング」に関わることでもあり、このあたりは将来的にも注力してやっていきたいと考えています。

とくに中小企業の事業承継では、現経営者の視点では足元の経営をどうするという、ある意味で過去と戦うものというイメージがありましたが、引き継ぐ側の若手世代にとっては「未来に向かってのプランニング」ですね。

そうですね。事業承継の出口として、子どもに承継するのか、従業員に承継するのか、あるいはM&Aに取り組むのか。
出口をどう設定するかによって、その会社をどう磨いていったら良いのか、など未来をプランニングするにはいろんな観点からの検討が必要です。

例えば株価一つとっても、株価を下げる方向で経営してたほうが良いのか、逆に会社の価値を高めて株価を上げる方向で経営すべきなのか。持株=経営権をどのようなタイミングで後継者に引き継ぐのか、後継者が子息であれば社内の納得感を得るためにどのような道筋を作ってあげるのか。そういうことを考えるのは、標準的な答えがないですがおもしろいです。

「未来をプランニング」するためには、事務所の中で役割分担をするということですね。

そうですね。
私はコーチングの手法を使って経営者の経営サポートに軸足、税務を担当する税理士、そして事務担当者の3人体制が私の中でのゴールです。

足元はコロナ禍もありますし、誰と組むということもありますのですぐにできるわけではないですが、将来の理想形ですね。

究極の夢は、“海上マンション”で世界を旅しながらテレワーク

プライベートの話になりますが、趣味は新日本プロレスと釣りと書かれてますね。

新日本プロレスは祖父が大ファンで、その影響で30年来のファンです。とくに「闘魂三銃士(注)」が大好きです。

(注)アントニオ猪木の弟子で、ともに1984年に新日本プロレス入りした、武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也のユニット。

私は「闘魂三銃士」より1世代前の藤波辰爾ですね(笑)。釣りは海ですか、川ですか。

もっぱら堤防釣りです。

名古屋に住んでいるときは毎週末釣りに出かけてきましたが、東京に来てからはあまり行っていません。子供が大きくなったら再開したいと思っています。

ちなみに、若尾さんのこれからの夢・野望はなんでしょう?

私の究極の夢は、「海上マンション」で世界中を旅しながら、テレワークで経営者をコーチングして生計を立てることです。

「海上マンション」というのは、船の上にマンションが乗っているようなイメージです。昔何かで見て以来、ずっと頭の片隅にあります。 私が子供の頃はあまり旅行に連れて行ってもらえなかったので、その反動もあるのかもしれませんが、自分の子供にはいろんなものを見せてあげたいと思っています。

船で世界を漫遊しながら仕事をする。想像するだけで楽しそうですね。海上マンションの夢が実現できることを期待しています。

(編集後記)
若尾さんは、見た目が真面目なだけでなく、非常に落ち着いた雰囲気の方なので、クライアントの経営者から信頼を寄せられていることがよくわかります。その若尾さんの究極の夢が海上マンションと伺って、実は相当お茶目な方ということがわかりました。

税理士として過去を見える化しつつ、経営者をコーチングすることで未来をプランニングする。 新しい税理士のあり方を目指している若尾さんの今後のご活躍に期待したいと思います。

<取材・文>第2期生 森本哲哉
取材日:2022年3月23日

【若尾さんの仕事道具】

【若尾さんのお仕事7つ道具】

①【パソコン】レッツノート「頻繁に持ち運ぶなら耐久性抜群なこのパソコン」
②【電卓】シャープ「25年間慣れ親しんだキー配列」
③【ハンディスキャナー】富士通「訪問先でコピーをとるよりスキャンで脱紙」
④【マウス】「親指コロコロ型マウスに慣れたらやめられません」
⑤【マイク】SHURE「オンラインミーティング時代には良いマイクを。人気YouTuberおすすめの一品」
⑥【スピーカー】eMeet「相手の声を聞き逃さないために良いスピーカー」
⑦【テンキー】Realforce「キータッチ感抜群!数字を扱う仕事ならこれ」

【番外編:趣味の道具】

【釣りの相棒です。最近はあまり出番がないですが、大事に手入れし保管しています】