2023年5月24日

P-CFO 伊藤 一彦さん

独立時の顧問先ゼロから3ヶ月で7社と契約
元銀行員のキャリアを活かしたP-CFOの形

アナタの財務部長合同会社 代表
伊藤 一彦(いとう かずひこ)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第5期生(2022年6月~11月)の伊藤一彦さんです。
伊藤さんはメガバンクに就職され、法人融資、リースビジネス、ベンチャーキャピタルビジネスなどでキャリアを磨いてきました。2019年には中小企業診断士登録を機に副業としてコンサルティング業務も開始。2023年1月、これらの経験とスキルを活かして独立開業されました。

伊藤さんからは、独立時点で顧問契約ゼロの状態から3ヶ月余りで顧問先等を7社も獲得できた背景やご苦労などを中心にお聞きしました。日頃からの人間関係の構築の仕方やそれまでのキャリアの活かし方など、全てのビジネスパーソンの参考になると思います。

【プロフィール】
神奈川県横須賀市生まれ。
東京大学卒業後、メガバンクに入行。本店・支店での融資業務、リース子会社でのリースビジネス、ベンチャーキャピタル子会社での複数のファンド立ち上げやEXIT等のキャリアを経験。2019年に中小企業診断士資格を取得したことを機に、メガバンクに勤務しながら副業としてコンサルティング業務を開始し、在職中の2020年6月に「アナタの財務部長合同会社」を設立。2023年1月、独立開業。
現在は、スタートアップや中小企業の経営者がお金の問題に悩まされずに本業に専念できるよう、パートナーCFOや常勤監査役として企業支援に奔走している。

保有資格
中小企業診断士
健康経営エキスパートアドバイザー(東京商工会議所認定)
認定上級IPOプロフェッショナル(日本IPO実務検定協会)

顧問先は7社。スタートアップのパートナーCFOや常勤監査役

まず、現在の事業内容について教えてください。

「アナタの財務部長合同会社」は、スタートアップや中小企業の経営者がお金の問題に悩まされずに本業に専念できるようなサービスを提供するというミッションを掲げ、ベンチャーキャピタル在職中の2020年6月に作りました。事業内容としてはパートナーCFOそのものもあれば、中小企業診断士的な補助金申請の支援、さらに常勤監査役など様々ですね。経営層向けの研修もやります。現時点のクライアントの属性としては、中小企業よりもスタートアップの方が多めになっています。

差支えない範囲で、顧問先の業種や時間配分はどのような感じですか。

顧問的に関わっているクライアントは7社です(取材時点)。

業種としては、人材系、運輸系、アパレル、メーカー、SIerなど様々で、地方の会社もあります。パートナーCFOとして契約している先には週1回程度の訪問かウエブ会議、常勤監査役をしている先には週3回は出社しています。

お一人だとかなりお忙しそうですね。

大変有難いことに、お仕事のご依頼が徐々に増えてきていて、稼働時間的にはこれ以上増やすのはかなり厳しい状況です。これ以上のアップサイドを狙うためにはどうすればいいかが、まさに課題です。

社名に込めた想い。伴走支援より、さらに一歩踏み込んで「アナタ」のニーズに応える

特徴ある社名ですが、社名に込めた想いを教えてください。とくに「アナタ」とカタカナにした特別な理由があるのでしょうか。

実は「アナタの財務部長」は社名ではなく、当初は自分自身のキャッチコピーとして作りました。個人として活動していくにあたり受講したセミナーの中で、独立起業するときのブランディングを考える機会があり、そこで「あなたの財務部長」が誕生しました。

昨今、中小企業の支援は「伴走支援」であるべきと謳われています。ですが「伴走」では単に寄り添っているだけ、という印象にもなりかねないと考えました。

「私は伴走よりさらに一歩踏み込んだことができます」とアピールする方法をいろいろ考えた結果、プロダクトアウト的ではない「あなたのニーズに応える」ということを軸において、「あなたの」という言葉を入れることにしました。

自分自身のキャッチコピーとして誕生した「あなたの財務部長」ですが、会社を設立するときに社名にしようと思っていたところ、ある方から「カタカナにした方が、運気がいい」とアドバイスいただいて、「アナタの財務部長合同会社」にしました。

【企業の研修で受講生に語り掛ける伊藤さん】

独立時点では顧問先はゼロ。スポット的な仕事だけ

独立時点ではゼロだった顧問先が、わずか4ヶ月で7社にもなったそうですね。

独立時点では、顧問先は本当にゼロで、プロジェクト的な仕事や補助金申請の支援や金融機関から融資を借りる際の事業計画の策定等のスポット的な仕事だけでした。特に2月にかけていろんなご縁やお話が形になってきて、今は7社になりました。

勤務時代から種まき。“心に残るお付き合い”で、顧問先を拡大

事業が垂直立ち上げになったわけですが、どのように顧問先を獲得していかれたのですか。

ルートとしては勤務時代も含めた知り合いから紹介いただくケースと、経営者交流会等に出向いて売り込むというケースがあります。リアルで交流を深めたり、遠隔地の方の場合はSNSで連絡を取り合ったり、かなり一生懸命やりました。

一時期は、経営者交流会は毎週のように通っていました。私はスタートアップ企業を主なターゲットに設定していたので、渋谷で開催される交流会をとくに狙って行っていました。

当然ながら、1~2回お話しただけで仕事に結びつくことはありません。ある方のいろんなお悩みを伺いアドバイスをしているうちに、その方とは契約に結びつかなくても、「こういう経営者がいるから会ってみる?」と紹介いただいて契約に至る、ということもありました。

地道な種まきが独立してから芽が出たんですね。経営者や仕事上の人脈を増やす秘訣のようなものはありますか。

秘訣…と言いますか、これまで融資、リース業務、ベンチャーキャピタルなどをやってきましたが、銀行の同僚でも取引先の方たちとも「心に残るお付き合い」を心がけてきました。

とくにベンチャーキャピタル子会社では、ファンドの立ち上げやEXITなどの本業の他に、人材育成も担当していました。グループ会社の社員向けの教育プログラムでの講師や、取引先からのトレーニーの指導役もやらせていただきましたが、特にトレーニーの場合は半年あるいは一年間指導役として関わる機会はあり、かなり親密になりましたね。

また、ベンチャーキャピタル子会社の社員だった方の中には、現在に至るまで20数年の付き合いになる人もいます。今はお互いに独立していますが、仕事を紹介していただくこともあり、心に残るお付き合いがでてきている方の一人です。

同僚としても指導役としても、せっかくのご縁なので少しでも「心に残るお付き合い」ができればと強く意識して、いろんなタイプの人それぞれに合わせて接するようにしていました。どの程度相手の心に残ったかはわかりませんが、このときの経験が今に繋がっていると思います。

リース子会社で草創期のITベンチャー企業を担当

ここで改めて銀行員時代のお話を伺いたいのですが、どのような銀行員生活でしたか。

入行したのはバブル崩壊直後で、入行後10年くらいは銀行や証券会社がバタバタ潰れる大変な時代でした。担当業務としては最初の数年は融資業務で、その後リース子会社に出向しました。

積極的に希望した仕事ではなかったものの、結果的にキャリアとしては大正解でした。

配属された部署では、ITベンチャー企業を担当していました。業務としては、ベンチャーキャピタル子会社の担当と連携して、リースとエクイティファイナンスを組み合わせた提案など、いろんな営業をしました。

担当した中には大企業に成長した会社もいくつかあります。日本のIT産業の勃興期にこうした企業を担当できたことはラッキーでしたし、今のキャリアにも繋がっているので大変有難い人事異動だったなと思います。

銀行員時代も新たな働き方への挑戦。VC子会社へ志願して出向、副業も第一号

勤務先の銀行グループでは、新しい人事制度の申請第一号だったそうですね。

はい。まず、人事異動に関しては、当時他社に先駆けて「社内公募制度」が導入された際に適用第一号組になりました。

リース子会社に在籍しているときに、次はベンチャーキャピタルの仕事をやってみたいと強く思っていたところに制度が導入されたので、真っ先に応募したところ首尾よく異動できました。異動先のベンチャーキャピタル子会社では、先ほど述べたように本業のファンドの立ち上げやEXIT以外に、社内や社外の方の教育も担当できたので、今に繋がる非常にいいキャリアを積むことができました。

副業制度の申請第一号でもあったそうですね。

副業はベンチャーキャピタル子会社勤務の時に始めました。ここ数年来、働き方改革が世の中の風潮になって今でも続いていますが、大手銀行グループで副業を解禁したのは勤務先が最初だったと思います。

ちょうど中小企業診断士資格を取得したので実際にコンサルティングをやってみたかったですし、副業をやれば仕事にも自分のキャリアにも何か役立つのではないかと考えていました。

実際に副業をやってみていかがでしたか。

たとえば、競業避止義務の観点から銀行の取引先との仕事はできない等の制約も多かったですが、多くの中小企業診断士が行う補助金支援もできましたし、「アナタの財務部長合同会社」も作ることができたので、副業制度を利用できてよかったと思います。

キャリアの展望が見えない時に出会った「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」

伊藤さんは養成塾後すぐに独立起業されていますが、そもそも養成塾を受講されたきっかけを教えてください。

これまでにもいらっしゃいましたが、私も中小・ベンチャー企業CFOの教科書」を読んで高森さんを認識した一人です。

出版された直後に一度読みまして、その後、副業で中小企業診断士としての活動をしていて「この先の展開をどうしていこうか」と模索する中でもう一度読み直しました。

2回目に読んだあとに、あるセミナーに参加した際に高森さんお会いしました。名刺交換で「あの本の著者だ」とわかり、その場で養成塾の話を聞いてぜひ受講してみたいと思った次第です。副業で中小企業診断士業務をしていて「補助金支援のスキルは上がっても、本当にやってみたい顧問的な仕事につながりにくいな」と行き詰まりを感じていたので、ちょうどいいタイミングでした。

【養成塾のワーク中、専門的な内容をにこやかに語る伊藤さん】

養成塾を修了したら独立する、と決意しての申し込み

P-CFO養成塾を受講されていかがでしたか。

実は、養成塾を申し込む時点で、「養成塾を修了したら絶対に独立する」と決めていました。その覚悟だったので、受講コースはフルサポート(注1)にしました。養成塾は6か月ですが、フルサポートでは1年間、グループコンサルや高森さんとの1on1の機会もあります。

ここはしっかりお金をかけて、独立に失敗しないようにしたいなと。ある意味で高森さんに賭けようと思いました。

(注1)フルサポートは、パートナーCFOを軸とした「自分という商品づくり」「マーケティング・セールスの仕組みづくり」「新規個人ビジネスのモデルづくり」を、個別コンサル、グループコンサル、OJTを通じたフルサポートで行い、独立・副業なら売上10百万円、独立数年なら売上30百万円のビジネスを構築するクラスです。詳細はこちら

並々ならぬ覚悟ですね。フルサポートは今も継続中かと思いますが、受講されていていかがですか。

フルサポートにして、非常に良かったです。

月ごとにテーマが設定され、たとえば自分の棚卸しや専門性の棚卸しから始まり、それらを元にクライアントのSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)を考察したり、独立した際のPDCAをどう廻していくかなどをやりました。

特に良い点は、グループコンサルティングの形式であることですね。講師の高森さんからのアドバイスだけでなく、グループのメンバーからのアドバイスをもらうことができます。参加者は同期だけでなく以前の期の方もいるので、私より先を行っている先輩方から悩みも含めてお話いただけるのは非常に有難いです。

先輩の話を聞くと「1年後の自分はこんなことで悩んでいるかも」などといろいろ想像できますし、その対策を考えることもできます。

養成塾でも「心に残るお付き合い」ができているんですね。

大学時代はボディビルダー。パワーリフティングは全国大会で4位。知見を活かし健康経営の道へ

伊藤さんはパートナーCFOであると同時に、健康経営に関するお仕事もされていらっしゃいます。こちらも今後の事業展開に関わってくるのでしょうか。

健康へのこだわりの背景を少しお話しますと、高校時代に陸上部で投てきをやっていて体を鍛えていて、その延長で大学時代は「ボディビル&ウエイトリフティング部」に所属していました。少しだけ自慢させていただくと、かなり真面目に取り組んだ結果、パワーリフティングの学生大会で全国4位、ボディビルは関東大会で6位に入賞できました。

ボディビルディングは、ウエイトトレーニングだけでなく食事も非常に大切なので、サプリメントや健康食は当時からかなり研究していました。そのため「やっぱり健康には運動と食事だ」ということが30年以上、私の心と体に沁みついており、これまで勤務中も健康への想いを大事にして行動してきました。同僚などに「みなさん、階段を使いましょう」とか「今月はスクワット強化月間」とか言って、周囲を巻き込んで一緒にやっていて、気が付くと社内では「伊藤トレーナー」と呼ばれていました。

ベンチャーキャピタルのトレーナー兼健康トレーナーですね。

【ボディビル大会でポーズを決める伊藤さん。この肉体美も心に残ります】

残りの人生でやりたいこと① 健康経営を広め健康産業を応援する

そこまで健康への想いがあるということは、今後の事業展開にも含まれるのでしょうか。

私は、かなり真剣に健康と健康経営を世の中に広めたいと思っていまして、「健康経営エキスパートアドバイザー(注2)」の資格も取得しました。

(注2)東京商工会議所が認定している「健康経営アドバイザー」の上位資格。
健康経営については、東京商工会議所のこちらのウエブサイトを参照。
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/01/

自分の健康論をあちこちでしゃべっていると、ある社長さんに非常に刺さりまして、「ぜひ我が社でも健康経営をしたい」と仰っていただきました。その社長さんは社員には絶対ブラックなことはさせないという強い信念をお持ちの方で、財務に加えて健康経営の顧問もすることになりました。先ほどお話した7社のうちの1社です。

30年前に始めたボディビルが巡り巡って仕事に結びつきましたね。伊藤さんの「健康愛」には脱帽ですが、健康経営とは具体的にどのようなことをやるのでしょうか。

今取り組んでいるのは、会社の従業員の方の健康面での課題の解決に向けた提案です。健康診断の検診率を100%にすることや、最近増えてきている「オフィスに野菜や健康食品等を配達するサービス」の導入を推奨したりすることなどです。

健康経営の普及と健康産業の支援は、残りの人生をかけてやりたいと思っていますので、私と同じ志の経営者がいらっしゃればこれからも積極的に関わっていきたいです。

残りの人生でやりたいこと② 地元・横須賀に貢献したい

健康経営の普及は素晴らしいライフワークになりそうですが、それ以外に何かありますか?

私は神奈川県横須賀市出身なのですが、健康産業と同じくらい地元に貢献したいと考えています。実は高校の同期と地元の中小企業を支援する仕組み、たとえば地域ファンドのようなものを作れないかと話しているところです。ただ、こちらはすぐには実現が難しそうなので、もう少し長い目でみた目標ですね。

「健康愛」と「地元愛」の2つが伊藤さんのキーワードになりそうですね。
2つの愛を実現できるようぜひ頑張ってください。

<編集後記>

実は、伊藤さんと私は同じ銀行出身です。グループ内での活躍は知っていましたが、学生時代にボディビルの有力選手だったことは初耳でした。ボディビル由来の健康愛や銀行時代のキャリア、そしてパートナーCFO養成塾をなどが結果的に今の仕事に結びついていることが、本当に素晴らしいと思いました。

これからも「健康愛」と「地元愛」で、日本のスタートアップ企業と中小企業をどんどん元気していってください。

<取材・文>第2期生 森本哲哉
取材日:2023年3月7日