「自分の提供価値に自信がつき、時間単価2倍にアップ」
海外駐在、IPOと多様な環境下でのコーポレート実務経験を武器に独立9カ月目で8社を支援中
株式会社NLiR 代表取締役
瀬川 貴之(せがわ たかゆき)さん
今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾第6期生(2023年6月~11月)の瀬川貴之さんです。
瀬川さんは、大手スポーツメーカー2社、ベンチャー企業でのIPO経験を経て2023年8月に独立。同年12月には株式会社NLiRを設立し、現在はパートナーCFOとしてベンチャー企業を中心に8社のクライアントを抱え、経営管理業務やIPO準備などで中小・ベンチャー企業の成長を支援されています。
会社員時代の国内外での経営企画業務、経理財務業務、FP&A業務や、ベンチャー企業のIPO前後でバックオフィス業務経験を活かし、現在「一番能力を発揮しやすい規模感」に絞って活動されているそうです。
今回は海外駐在×MBA×IPOと豊富な実務経験・知識を持つ瀬川さんに、パートナーCFOとしての仕事の実態やパートナーCFO養成塾受講の背景、将来の展望などをお伺いしました。
独立から9カ月で、パートナーCFO/パートナー管理部長として8社支援
――瀬川さんは2023年に独立起業されたということですが、まずは現在のお仕事について教えてください。
まさにパートナーCFOあるいはパートナー管理部長といった立ち位置で中小・ベンチャー企業8社の支援を行っています。3社はハンズオン支援、残り5社はアドバイザーとしての支援をしています。
ハンズオン支援としては、資金調達支援から予算策定・予実管理、採用制度の設計などが中心で、各社の課題に応じた支援を行っています。
一方、アドバイザーをしている先は主にIPO準備中のベンチャー企業で、週1回のオンライン面談とSlackやメッセンジャーでのサポートが中心です。上場準備に関するさまざまな質問に対し、課題の優先順位付けや最適な制度設計のアドバイスを行っています。
――瀬川さんのパートナーCFOとしての強みを挙げるとしたら何でしょうか。
コーポレート全般に関する実務経験が豊富であること、どんな質問にも対応できることが強みです。
キャリアの始まりはミズノ(株)の経理で、その後は、海外駐在先での経営企画業務、帰任後の本社経理財務部での経営管理や開示業務、アディダスジャパン(株)でのFP&A業務など、長年に渡り財務や経営企画業務に携わってきました。また、前職の(株)グッドパッチではIPOも経験し、IPO準備の過程で労務・総務・法務・情報システム・内部監査など幅広い業務にも携わりました。これらの経験に基づき、中小・ベンチャー企業のコーポレートに関する悩みには「こういう時はこうすれば良いですよ」と具体的なアドバイスを行えています。このことはクライアントにとって大きな利点であり、結果的に私の強みになっています。
クライアントのニーズと自身の提供価値が最もマッチする売上規模1億円から30億円の中小・ベンチャー企業を支援
――顧客層はどういった方でしょうか。また、ターゲット顧客は絞っていますか。
意識していませんでしたが、実際のクライアントは売上規模1億円から30億円の中小・ベンチャー企業が多いです。
私がこれまで多く経験してきた企業の規模感であり、さまざまな経営者と対峙する中で、クライアントのニーズと私の提供価値が最もマッチしていて、一番能力を発揮しやすいと感じています。ちなみに、ターゲット顧客として業種では絞っていません。
――IPO経験は瀬川さんの強みでもあると思いますが、IPO支援のニーズも高そうですね。
はい。IPOを目指している企業からの依頼は多く、実際にクライアントの半数はIPO準備企業です。私のnoteやX(旧Twitter)での情報発信やウェビナーを通じて私の存在を知り、問い合わせをいただきました。
クライアントとの出会いは経営者コミュニティとマッチングプラットフォームの活用+SNS発信
――会社員からの独立起業でクライアント数8社ということですが、実際にどのような流れで顧客候補と出会い、依頼を受けるのでしょうか。
多くの経営者やCXOクラスの方とお会いすることを意識して行動しています。
具体的には、経営者コミュニティやビジネス上のマッチングプラットフォームを活用して、さまざまな人と話す時間を確保しています。マッチングプラットフォームは、YentaやYOUTRUST、Wantedly、アマテラス、副業クラウドなどに一通り登録していて、スカウトメッセージや問い合わせを受ける形で顧客との接点を広げています。
実際に話すときには、自分を売り込むことよりも、純粋に相手が何に悩んでいるのかを理解するための会話を心がけながらクライアントとの繋がりを築いていくように意識しています。
――noteなどSNSでの情報発信については、どのように考えて取り組んでいらっしゃいますか。
noteは前職のグッドパッチ時代から書き始めました。直接的な顧客獲得を意図したものではないのですが、「瀬川さんのnoteを拝見しました。一度お話させてください」とDMをいただくことが月に1度はあります。SNSでの発信はベンチャー企業を中心に多くの方に見ていただいているなと思います。
noteやXでは実務上のテクニカルなことより「どのように感じたか、なぜそのような意思決定を行ったか」といった、私の感情や決断の理由を中心に発信しています。
SNSを見て連絡をくれる方には、すでに私の価値観や考え方が伝わっているためか、性格の不一致なども少なく、スムーズなコミュニケーションが図れていると感じています。
養成塾で「自分の提供価値に自信がつき、時間単価2倍にアップ」。仕事と家庭、育児とのバランスの取れたライフスタイルを実現
――ご自身のサービスの値付けや単価はどのようにお考えですか。
パートナーCFO養成塾受講中の2023年8月に独立開業しましたが、その当時は会社員時代の年収を基準に値付けや時間単価を考えていました。
しかし、パートナーCFO養成塾での講義を通じて、自分の提供価値に対する自信を持てるように意識がアップデートされていき、今では確信を持って適切な金額を提示できるようになりました。
――会社員時代と独立開業後の現在を比較した際の、労働時間や収入面、労働生産性に関する変化はどのようなものでしょうか。
独立してからの収入は、会社員時代プラスαという感じです。ベンチャー企業に勤めていた頃は長時間働いていたこともあり、独立後の労働時間は半分から3分の2まで減少しました。その結果、時間単価は1.5倍から2倍に上がり、労働生産性は大幅に向上しました。
現在は、クライアントに対して質の高いサービスを提供しながらも、効率的に働くことができ、仕事と家庭、2歳になる娘の育児とのバランスの取れた生活を送っています。
――お仕事でやりがいを感じるのはどんな時でしょうか。
いろいろな企業の経営者との対話を通じて、その企業のビジネスモデルを理解し、具体的な課題解決に貢献できていること、これが本当に面白く、パートナーCFOとしての仕事の醍醐味だと感じています。
世の中には本当に多くのユニークで面白い企業があり、さまざまなビジネスモデルが存在します。そういった企業と直に接することができるのは、非常に刺激的で楽しいです。
海外駐在経験やベンチャー企業IPO経験で得たものが、独立後の迅速・的確な対応力に
――社会人になってからの印象的なエピソードがあれば教えてください。
最も印象的なのは、ミズノ(株)在籍中にイギリス2年とフランス2年、連続して4年間の海外駐在を経験したことです。
駐在先では国籍もバックグラウンドもバラバラで、多様性の中で数多くのタフな経験をし、それを乗り越える力も得ました。海外駐在の経験で得たマインドとタフネスさがあったからこそ、カオスなベンチャー企業でも6年間働けたのだと思います(笑)。
――その後の株式会社グッドパッチでのIPO経験も印象的なエピソードかと思いますが、IPO経験を通じて得られたものは何でしょう。
IPOを通じて、経理財務に留まらず、組織や人を含めた企業全体の成長と発展に貢献する経験を得られたことは大きな財産です。
IPOに向けて自分の能力を発揮し、会社の仕組みを作ることに加え、メンバーとの合意形成や証券会社との調整・交渉を通じて、プロジェクトマネジメントのスキルも身に付けることができました。幅広い領域での実務経験と深い理解を得ることができ、経営者としての視点やスキルも大幅に向上したと感じています。
今の仕事でクライアントからのさまざまな質問に対して、迅速かつ的確に対応できるようになったのは、このIPO経験があったからこそだと思います。
目指していた「40代で自身の知見を活かして複数のクライアントを支援する働き方」を実現
――瀬川さんは養成塾を受講中に独立されたとのことですが、パートナーCFO養成塾受講のきっかけや目的を教えていただけますか。
自分のキャリアに対する意思決定と養成塾の開講タイミングが重なったことがきっかけでした。
実は30代の頃から、40代では現在のパートナーCFOのように「自身の知見を活かして複数のクライアントを支援する働き方をしたい」と思っていました。しかし、当時の私は大企業での経験しかなく、いきなり個人で仕事をする自信もイメージもありませんでした。そこで30代は修行期間と位置づけ、MBAを取得し、ベンチャー企業で経験を積むことにしました。
そして40歳が近づく中で、グッドパッチの上場から数年が経過して私が貢献できるフェーズが終わりつつあると感じていたこと、2022年に第一子が生まれたことが大きな転機となり、独立を決意しました。
そんな中で、高森さんの存在を知り、パートナーCFOという概念に共感し、「パートナーCFOのような働き方がしたい」とパートナーCFO養成塾の受講を決めました。
――パートナーCFO養成塾の学びは実際の仕事にどのように活かしていらっしゃいますか。
独立して活動する中で、養成塾で吸収したことを即実践に活かすことができました。
養成塾では実務で使えるツールやテンプレートが多数提供されますが、特に「クイック経営診断」や「PLボックス図」は、クライアントとの初期の商談で非常に役立ちました。
いずれも自社の現状が可視化されるため、経営者も課題を認識しやすく、その後のパートナーCFOとしての支援提案がスムーズに進むことが多かったです。これらのツールの活用により、成約率も高まりました。
――瀬川さんは個人での事業開始から数か月後には会社を設立されています。会社設立に至った背景や思いを教えてください。
理由は2つあります。
まず、クライアント企業の信頼感や安心感を得ること。独立当初はフリーランスの経営コンサルタントとして活動していくつもりでしたが、実際に活動する中で重要な財務情報や経営情報を開示するクライアントの立場に立って考えた時に「経営コンサルティング会社の代表」と名乗るほうが信頼を得やすく、安心できるのではと感じるようになりました。
もう一つは、個人事業主、フリーランスとしての活動を通じて、自分の働き方に対する考えが明確になったためです。
独立当初は会社員に戻る可能性も考えていましたが、養成塾を受講しながらパートナーCFOとしてクライアントの支援を行う中で、自分の知識や経験を活かした働き方に対する自信が深まってきました。そして、より多くの企業に価値提供できる、複数の会社を支援する働き方に魅力を感じるようにもなりました。
投下時間という意味ではリソースを分散させていますが、提供価値や密度はフルコミットと同等以上のものを発揮するのがパートナーCFOだと思います。このように、働き方に対する考えが明確になったことで、再び会社員に戻るという選択肢は無くなりました。
コーポレートファイナンスとパーソナルファイナンスの両面から中小・ベンチャー企業経営者を支援したい
――パートナーCFOとしての今後の展望について教えてください。
コーポレートファイナンスとパーソナルファイナンスの両面から中小・ベンチャー企業の経営者を支援できる人材を目指しています。パートナーCFOとしてクライアントの企業価値の成長に貢献すると同時に、経営者の個人資産の管理や相続問題などの相談にも対応できる存在です。
そのために今は、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得にも取り組んでいます。AFPの資格は一昨年に取得し、CFPの資格は6科目中の2科目を残すのみです。
――パートナーCFO協会で得られていること、期待していることを教えてください。
協会事務局のサポートが手厚く、充実していると感じています。また、今後はこのコミュニティの輪を一緒に広げていけたら良いと思っています。
私自身、事務局の活動にも興味がありますので、仕事や家庭とのバランスを取りながら、協会活動に参加し、コミュニティの発展に貢献していきたいです。
夢は事業の立ち上げと本の執筆。自分の経験を活かし、新しい挑戦を続けたい
――瀬川さん個人としての今後やりたいことを教えてください。
自分で事業を立ち上げたいという夢と本を執筆したいという夢があります。
40代前半はパートナーCFOとしての価値提供を突き詰める期間と位置付けていますが、40代後半には何かしらの事業に挑戦したいです。自分で事業を立ち上げて成功を収めてこそ、優れた経営人材やCFOとして自他共に認められる存在になれる、と考えているからです。
書籍は、業務に関するテクニカルな内容よりも、自分の半生を綴る本を書きたいと考えています。海外駐在の4年間で経験したエピソードなどネタは豊富にあるので、これまでのキャリアを振り返り、これらの経験を通じて得た知識や教訓を読者に共有できればと思っています。
この計画は、年内に実行に移さないと一生実現しないかもしれないので、今年中に取り組むつもりです(笑)
パートナーCFOに興味を持ったら、まずは一歩踏み出してみて
――最後に、パートナーCFOに興味を持った方へのメッセージをお願いします。
パートナーCFOへの好奇心が湧いたなら、その好奇心を抑えるのは難しいのではないでしょうか。なので、まずは一歩踏み出してみることをお勧めします。一歩踏み出すアクションには、オープンセミナーに参加する、高森さんのCFO本を読む、副業としてクライアントを取るなど、それぞれの動き方でいいのかなと思います。
私は興味を持ったことに対してすぐに行動を起こすタイプで、過去には英語ができないのに海外駐在を決めたりもしました。もちろん、その過程では大変なこともありましたが、振り返ると総じて良い経験となり、自分の成長に繋がっています。
興味を持ったら、ぜひその一歩を踏み出してみてください。新しい挑戦があなたの人生を豊かにしてくれると思います。
――瀬川さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
【瀬川貴之さんプロフィール】
株式会社NLiR 代表取締役
一般社団法人日本GHCDコーチング協会理事
早稲田大学卒業後、大手総合スポーツ用品メーカー・ミズノ株式会社に入社し、9年間経理業務全般に従事。イギリス2年間、フランス2年間の海外駐在では現地経営企画業務、帰任後は本社経理財務部で開示業務等を担う。その後、大手外資系スポーツ用品メーカー・アディダスジャパン株式会社でFP&A業務を経験。
2017年2月にデジタル領域のプロダクト開発に強みを持つデザイン会社、株式会社グッドパッチに参画。2020年6月にはデザイン会社として初となる東証マザーズ市場(現グロース市場)への新規上場に、管理部長として貢献。
2023年8月にパートナーCFOとして独立開業、2023年12月に株式会社NLiRを設立。中小企業のパートナーCFO・パートナー管理部長として、経営管理業務やIPO準備支援を通じ、クライアント企業の価値向上に貢献している。
<編集後記>
瀬川さんは無類のサッカー好きで、社名「NLiR」はロンドン北部をホームタウンとするプレミアリーグのプロサッカークラブ「アーセナルFC」にちなんで名付けたそうです。(「North London is Red」はアーセナルの勝利を意味する)瀬川さんがご自身で立ち上げた事業を成功に収め「North London is Red!」となる日が楽しみです。コーポレートファイナンスとパーソナルファイナンスの両面から中小・ベンチャー企業の支援を目指す瀬川さんの今後のさらなるご活躍を応援しています!
<取材・文>第5期生 須々田智昭
取材日:2024年4月2日