「P-CFOは共通言語」
学者とコンサルの道を両立し、仲間と地方経済を支えるパートナーCFO

金沢大学 客員研究員
畑 憲司 (はた けんじ)さん
今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第6期生(2023年6月~11月)の畑憲司さんです。
畑さんは、経済産業省でキャリアをスタートされ、その後銀行系シンクタンクや会計系コンサルティングファームを経て、経営コンサルタントとして独立。「学者とコンサルの両立」を目指し、約4年前に金沢に拠点を移し、現在は金沢大学の客員研究員、エグゼクティブコーディネーターとして石川県の中小企業の支援に取り組まれています。
今回のインタビューでは、畑さんが実践されている中小企業の「管理会計から組織改革」における具体的な取り組みや、パートナーCFOの学びを活かしたビジネスモデル、そして「地方振興」に関する将来の目標についてお伺いしました。
石川県で、管理会計を軸に中小企業のコンサルティングを展開
現在は石川県を拠点に中小企業向けのコンサルティングをされているということですが、具体的な仕事内容について教えてください。
現在は金沢を拠点として、中小企業向けにコンサルティングを行っています。
現在のクライアントは金沢市内の業務用食品卸会社A社と、羽咋市内の生活サービス関連会社B社の計2社です。A社は2020年10月から約4年、B社は2023年12月から関与して1年になります。
主に管理会計を導入し、そこから組織開発を進めていく支援をしています。
管理会計をどのように企業に導入しているのでしょうか。
まずはじめに、経営診断を実施し、企業の強みや弱みを特定します。この過程で、管理会計が施策に結びつく重要性を経営者に理解してもらうことを心がけています。「管理会計がちゃんとしていないと施策の実現に結びつかない」ということを意識してもらい、その大事さを感じてもらいながらサービスを提供しています。
経営診断について、具体的にどのようなことを見るのでしょうか。
具体的には、オペレーションの見直し、管理会計の精査、そして外部環境の分析を行っています。2か月ぐらいかけて、従業員のキーパーソン全員をインタビューしていく形で経営診断をしています。
私のアプローチは、単にレーティングをつけるのではなく、従業員からの定性的なコメントや証言を組み合わせて経営者に伝える形が多いです。経営者に伝える中で、経営者との意識のギャップを浮き彫りにしたり、課題に対する仮説を提示しています。過去に8年間、事業デューデリジェンスに携わってきた経験を活かし、この手法で取り組んでいます。
管理会計の支援に関しては、畑さんはどの程度実務に関与されているのでしょうか。また、何か定型化されたツールやフォーマットを利用されているのでしょうか。
基本的に実務も私がやっています。ある程度定型化された方法論はカタチになりつつありますが、固定化されたフォーマットはありません。このタイミングはクライアントとの信頼関係を構築する重要プロセスなので、クライアントをリードしながら、進捗に合わせて必要な情報をこまめに伝えるようにしています。
経営に必要な数字が把握できるようになったら、その数字を基にPDCAサイクルを回し、施策を展開していきます。地方の従業員100人未満の中小企業の場合、現金出納そのものに手一杯でキャッシュフローに意識が向いていることも多いのですが、ここで顧客セグメントごとの損益を見える化できる管理会計を導入することで、企業のパフォーマンスは大きく変わります。利益を出すべき顧客を定量化し、経営者だけでなく従業員にもその成果が見える形で示していきます。
これが、組織全体の意識改革につながり、結果として組織開発の手がかりとなっていきます。
支援先の1社では、管理会計がわかるスタッフを1名入れて、その方にノウハウを伝授していく動きも始めたところです。
中小企業向けのアプローチとして、特に心掛けていることはありますか。
中小企業では、経営者が思いつきで行動を起こすこともあり、また経営者がコンサルに依頼したことが真の経営課題からズレていることもしばしばあります。ですから、単純に経営者のが主観的に感じている課題感を鵜呑みにするのではなく、経営診断を行い、管理会計を重視し、そこを足場にして組織開発を進めるという、王道的なプロセスをきちんと実践することが重要だと考えています。
今の仕事で、特にやりがいを感じるのは、どのような時でしょうか。
組織改善の効果を比較的早い段階で実感できることに大きなやりがいを感じています。
管理会計を導入することで、経営者や従業員が成長していく姿を直接見ることができるのはとても楽しいですね。また、数字として結果が出る前に、会社の雰囲気や業務の改善が進んでいく様子を目にすることができるのも、私にとって大きな魅力です。

人生の転機となった「共創型企業・人材展開プログラム」
金沢の支援先は、それぞれどのようなきっかけで支援されるようになったのでしょうか。
もともと私が約4年前に金沢に来たのは、「共創型企業・人材展開プログラム」への参加がきっかけです。これは北國銀行と金沢大学、協同組合全国企業振興センター(アイコック)がコンソーシアムを組んだプログラムで、専門家を県外から金沢大学の客員研究員として迎え、地元の中小企業のコンサルティングをするというものです。(※)
通常は約半年のプログラムなのですが、私の場合は最初に関与した企業さんとずっと続いていている形です。自分が関与した企業さんの業績や会社の雰囲気がどんどん変化してきて、北國銀行さんから企業さんを紹介いただけるようになりました。
特にクライアントの資本性劣後ローン借り入れについて支援をしたことをきっかけに、その後銀行と連携して月ごとのPDCAサイクルを確立することで、信頼関係がさらに深まりました。この成功体験は自分にとっても自信となりましたね。
※「共創型企業・人材展開プログラム」は、令和6年10月より第6期が開講。金沢大学、協同組合全国企業振興センター(アイコック)、株式会社北國フィナンシャルホールディングスに加え、新たに石川県が参画して実施されています。
https://ikoc.net/kyoso_kanazawa/news/240926.html


学者の道とコンサルの道の両立を目指して。地方振興の現場に至る道のり
金沢に来られるまでは、どのような仕事やキャリアについてぜひ教えてください。
社会人としてのキャリアは、経済産業省での5年間の勤務から始まりました。その後、銀行系シンクタンクを経て、会計系コンサルティングファームにて8年間、主に事業のデューデリジェンスに携わり、その経験を活かして独立するに至りました。
そうした経験の中で、今の金沢での仕事を志すようになったきっかけは何でしょうか。
「地方振興」は、公務員時代から気になっていた課題です。というのも、私自身が高知県の出身で、個人経営の雑貨屋の息子として、家族の経営を見て育ちました。祖父祖母が頑張っていてもスーパーマーケットがどんどん大きくなっていって、家業が傾いていった経験もあったので、「経営って何故うまくいかないのかな、地方経済ってなんで活発にならないんだろう」ということに、ずっと関心がありました。
2016年よりフリーでコンサルをしていましたが、2020年のコロナを機に大学教員を目指そうかと方向転換を検討し始めました。そのために、当座の生活資金を調達して京都に居を構えて、としていたときにFacebookで金沢大学のプログラムのことを知ったのです。
いつか経営の全体感をわかったうえでちゃんとした学者として身をたてたいという目標があり「学者の道とコンサルの道を良いとこ取りができないか」と常に考えてやってきたので、金沢大学の客員研究員というタイトルを得て、地方の中小企業のコンサルティングができる、まさに私としては完全に渡りに船、でした。
地方でCFOのアウトソーシングのビジネス展開を目指し、P-CFOの道へ
すでに中小企業の支援を実践されていた畑さんが、パートナーCFO養成塾の受講を決めたのはどんな理由からですか。
私が養成塾を受講したのは、2社目のクライアントを獲得するタイミングでサービスの再現性について悩んでいたためです。1社目の食品卸業者とはプログラムを通じての関係をスタートにして、週4日フルタイムで月30万円のフィーから距離感を保ちつつ段階的な値上げを成功させていきました。しかし、2社目以降の企業に対して、信頼関係の構築の初期段階で1社目と同程度の時間かけることは現実的に難しい。1社目と遜色のないクオリティでサービス提供をしていくために、ビジネスモデルの再構築が必要だと感じていました。
どのようにパートナーCFO養成塾を知ったのでしょうか。
志師塾のメーリングリストを通じて知りました。
当時、「CFOのアウトソーシングサービスが地方ではハマるのではないか」という仮説を持っていたものの具体的なビジネス展開に悩んでいました。そこに、同じ考えの専門家がいることを知って、これは必要な学びの機会と考え、参加することにしました。


P-CFO養成塾受講後のマインド変化が、ビジネスをスケールさせていく転換点に
講義中に特に印象に残った内容は何でしょうか。
第1回の講義で、フィーの設定や経営者との距離感の話が非常に参考になりました。
自分のフィーの設定のレベル感とほぼ合っていて、確信が持てました。また、コンサルティングとコーチングの使い分けに関しては、「コンサル的な局面とコーチング的な局面があって、どっちか100%ではなく、グラデーションをつけて混ぜてデリバリーすることになる」という話も印象に残っています。自分が実践していて、まさにそうなりつつあったので、この点も方向性があっていることを確認できて安心できました。
養成塾受講後の変化について教えてください。
最大の変化は、「プロジェクトにおいて、自分の専門外についてはもっと得意な人に参加してもらう」という考えが新たに芽生えたことです。
「CFO8マトリックスの全部ができるようになる必要はない」と、Day1から繰り返し伝えられており、納得しています。また、高森さんの知識やスキルのレベルが非常に高いので、全ての領域で同じレベルに到達することは難しいだろうな、という割り切りもできました。
結局3社目以降支援先を増やしていくとなると、一番制約となるのが自分の時間です。今後、自分の強みを生かし「地方の中小企業を良くするという実務家としての活動で経済的な基盤を作りつつ、学者としてのアカデミックライティングの時間も捻出していく」ことを考えると、ビジネスモデルづくりやノウハウ構築に関してはP-CFOのものを活用させていただくことがやはり近道です。
それらを踏まえて、私の場合は「自分一人でやる」という発想を捨てたほうがいいと考えました。
CFO8マトリックスの中で、自分の強みは「経営診断」と「管理会計」なので、それ以外は同じ共通言語でつながれるP-CFOのメンバーを探したほうが早いだろう、という発想ができるようになりました。この内面の変化は、自分の金沢でのビジネスをスケールさせていくにあたり非常に大きな転換点になったと思います。

P-CFOという共通言語を持つ仲間と、相互に補完しあい、協力体制を構築
パートナーCFO養成塾の学びは、現在のお仕事にどのように活きていますか。
プロジェクトの全体感が見えやすくなり、コ・ワーカーへのタスク割り振りにも役立っていると思います。
実際にP-CFOの他の受講生や地域のフリーランスと協力してサービス提供する形に取り組んでいて、P-CFOメンバーでは同じく6期生の瀬川さんといっしょにお仕事をしています(2024年7月現在)。瀬川さんはスタッフではなくプロマネとして相互に強み・苦手分野、リアル/リモートのプロコンを補い合い、業務を効率よく進められています。
私は養成塾をオンライン受講していましたが、瀬川さんともそこで出会いました。リアルな名刺交換がなくても、ワークなどを通じて話す機会があり、ぜひいつか一緒に仕事をしたいと受講中から考えていました。FBもあるので、受講生全員と簡単に連絡を取り合える点は便利ですね。
今は日本パートナーCFO協会に参加しているので、これからも一緒に働ける人との出会いを楽しみにしています。また、将来的には金沢でもパートナーCFO関連のイベントを開催できたらいいなと思っています。地元にP-CFOという共通言語がわかる仲間が増えることで、地域経済の活性化につながればと考えています。
地方の中小企業をレベルアップさせる「鉄板パターン」の確立、展開を目指す
今後支援先を増やしていく方針とのことですが、5年後のビジョンをぜひ教えてください。
まずは、金沢能登地域で30社へサービスを提供している状態を目指しています。
一つの地域に集中して大きな成果を上げることで、地方の中小企業をレベルアップさせる「鉄板パターン」を確立したいです。
1社あたり月額30万から40万円のフィーで提供すると、30社で年商1億円となります。この規模に達すると、地域の多様な業種で影響力を発揮できると考えています。
その手前で、3年以内に10社が目標です。今年から来年の早い時には3社~5社くらい、というペースでノウハウを定型化して、人を育てていく、そのくらいのスピード感が必要かなと思っています。人数としては1社1.5~2人で担当するとして、50人くらいの規模でしょうか。
さらに、10年後のビジョンもお持ちですか。
私が確立したアプローチやメソドロジーが、他の地方中核都市でも活用されていることを目標にしています。福井や富山、岐阜、長野といった中核都市にノウハウを展開し、地方経済に大きな変化をもたらすことが夢です。最終的には、京都や福岡といった都市にも展開できれば成功だと考えています。
パートナーCFOという中小企業経営の共通言語を手にし、有効活用できる未来を
最後に、パートナーCFOを目指す方々へのメッセージをお願いします。
P-CFO養成塾のカリキュラムは、経営の全体像を把握するための共通言語を得る貴重な機会です。CFO8マトリックスは、中小企業の経営に必要な8つの分野があり、それぞれが要素化され、有機的につながって表現されていると思います。中小企業の経営を捉えるという意味では最低限の共通言語といっても過言ではないと思います。
「一緒に働く」仲間の中でも、「共通の言語がある」仲間との研鑽は深いレベルでやり取りができる感覚があり、私にとってはとても意味があるものです。
これから受講する人にもぜひ、P-CFOという共通言語を有効活用してほしいです。また、私は地方の中小企業ほどパートナーCFOの役割と親和性が高いと確信しています。
私からのメッセージは「パートナーCFOになったら、よかったら一緒にやりませんか?」
P-CFOという共通言語がある仲間と一緒に働けることを、私も楽しみにしています!
畑さん、ありがとうございました!

【畑さんのプロフィール】
金沢大学 客員研究員
畑 憲司 さん
高知県高知市出身。京都大学経済学部卒業後、中央省庁でマクロ経済政策やエネルギー政策に携わる。その後、会計系コンサルティングファームで、食品流通関連企業をはじめとしたM&Aを数多く担当し、2015年、京都大学大学院で博士号(経済学)を取得。2 016年からフリーコンサルタントとして活動。
2020年に都市部の中核人材を地域企業とマッチングする「共創型企業・人材展開プログラム」に参画し、プログラム修了後も金沢大学の客員研究員として、地域の中小企業のコンサルティングに注力している。
金沢大学の客員研究員。ネイチャー・アンド・ストラテジー代表
【編集後記】
畑さんが「王道的なプロセスをきちんと実践することが重要」とおっしゃる通り、この王道的なアプローチを実行し、組織変革につながる成果を上げていることは本当に素晴らしいと思います。これは畑さんの信頼関係構築の成果であり、優れたアプローチの妙だと感じました。金沢での取り組みが今後、さまざまな地域の中小企業に広がる未来を楽しみにしています。
取材日:2024年7月29日