2025年3月25日

P-CFO 樋之津 智文さん

財務コンサルタント×パートナーCFOとして
経営者に寄り添い企業の未来を共につくる

株式会社エンビジョン・コンサルティング 代表取締役
樋之津 智文(ひのつ ともふみ)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾第6期生(2023年6月~11月)の樋之津智文さんです。
樋之津さんは、新卒でアパレル会社に就職後、税理士法人が母体となる経営コンサルティング会社に転職。7億円の債務超過となっていた企業の累積損失を解消し、5億円以上の補助金を獲得するなど、数々の成果を挙げました。こうした成功体験を経て、より主体的に経営者を支援し、企業の成長に深く関わる立場を目指したいと考え、独立の意思を固めました。その後、パートナーCFO養成塾を受講し、より専門的な支援を行うための準備を進めました。
昨年には株式会社エンビジョン・コンサルティングを設立。現在は、財務コンサルティングを中心に、経営計画の策定や予実管理の支援を行うなど、幅広い事業を展開しています。その手法は、経営者に寄り添い、正解を押し付けるのではなく、本当の意味での伴走支援を信条としています。

独立起業のためにパートナーCFO養成塾を受講された樋之津さんに、現在の仕事内容や独立時の思い、パートナーCFO養成塾で得たもの、そして経営者として、個人としての今後の展望についてお伺いしました。

財務コンサルタントとして独立~ミッション・ビジョンを大切にクライアント支援

現在は、年商1億円未満、従業員10名以下の小規模企業から、年商数十億円規模、従業員100名以上の中堅企業まで、幅広い中小企業を対象に、財務コンサルティングを中心としたサービスを提供しています。
具体的には、現在7社の顧問を務め、数字に基づいた経営計画の策定、その実行に伴う行動計画の作成、さらに毎月開催される経営会議への参加、計画と実績の比較・分析(予実管理)を行っています。また、経営会議のファシリテーションも担当し、経営者の方々との直接的な対話をはじめ、各社の幹部と連携しながら経営課題の解決をサポートしています。
スポット業務としては、経営改善計画の策定、補助金申請サポート、M&Aにおける財務デューデリジェンスなども行っています。

大学生の頃に読んだ書籍『7つの習慣』に大きな影響を受けました。それ以来、自分の生き方について深く考え、少しずつ自分の価値観やビジョンを明確にしようと努めてきました。
独立を機に、自分のミッション・ビジョン・バリューをしっかり定めようと決意しました。お客様に「会社のミッション・ビジョン・バリューを定めよう」と提案する以上、まずは自分自身が実践しなければ意味がないと感じたからです。
ある経営合宿に参加した際、議論を重ねる中で現在のミッションとビジョンが自然と心に浮かびました。コンサルティングや経営支援の仕事は、直接会社に関与することよりも、経営者や幹部に良い影響を与え、一緒に未来を築いていくことが重要だと考えています。この思いを「つながれた縁を大切に、未来を共につくる」という言葉に込めました。
また、ビジョンに関しては、企業が社会に貢献し、従業員が働きがいを感じながら、お客様に感動と満足を提供できるような「志と感動あふれる経営」を当たり前のものにしたいとの願いを込めています。

私も同様の経験があります。しかし、理念の大切さを訴えると、共感してくださる方々が一定数いらっしゃいます。私は理念を一種のフィルターだと考えています。理念を大切にする方々とそうでない方々では、価値観や仕事の進め方が大きく異なります。理念を共有できる経営者と協業することで、短期的な成果だけでなく、長期的な信頼関係が築けることを実感しています。

 (出所_株式会社エンビジョン・コンサルティングHP_ https://en-vision-consulting.com/about/

信頼関係の構築とネットワーク活用でお客様との縁を広げる

前職での人脈や紹介、公的機関の専門家登録を通じて仕事を紹介していただくことが多いです。また、さまざまな業界の交流会に参加し、積極的に人脈を広げる活動をしています。前職の経験から、すぐに仕事に結びつかないことは理解していますが、継続的に交流を深め、信頼関係を築くことで、将来的に仕事につながると期待しています。
補助金申請のサポートも、お客様との出会いを生み出すきっかけとなっています。最初は実績が少なく苦労しましたが、成功事例を積み重ねることで、徐々に信頼を得るようになりました。その結果、現在ではお問い合わせも増え、受注しやすくなっています。

企業理念の策定や経営計画の立案に深く関わり、成長をサポートできたときに大きなやりがいを感じます。
独立前からお付き合いのある同世代の後継者社長を支援する機会がありました。その方は、経営の勉強を十分に積む前に事業を承継し、経営者としての経験を積み始めたばかりでした。
その方と共に理念や計画の策定に取り組んだ結果、経営理念が形になり、その理念に共感した人材が集まり、活躍しているとのことです。このような自身の支援経験の中で、後継者が抱える課題の大きさを実感し、後継者支援を強化するようになりました。事業承継が社会的に重要な課題となる中で、自分と同世代の方々を支援し、他者の成長に貢献できる経験は、非常に大きな喜びとなっています。

岡山にはすでに、診断士協会や地銀が主催する後継者向けの講座が開催されています。私が以前勤務していた税理士法人でも、「経営塾」として数字に特化した塾を開催していました。私も講師として参加したことがあり、数字に強みを持つ塾として高く評価頂きました。 しかし、私自身が本当に伝えたいことは、数字だけにとどまりません。「経営者としての視点や理念に関する内容を伝えたい」という思いが強くなり、自分なりの切り口で発信したいと考えるようになりました。
その想いから、100%自分が伝えたい内容を盛り込んだ講座を企画し、現在コンテンツを作成しています。今後はより積極的に講座を広めていきたいと考えています。

日常の仕事は自宅に近いレンタルオフィスで

経営に関わる仕事を目指し、中小企業診断士を取得~コンサルティング会社への転職と新たな挑戦

高校卒業後、大学進学を機に香川県へ移り、そのまま就職したので、合わせて14年間住んでいました。中小企業診断士の資格も、香川県で働いていた時期に取得しました。
香川県中小企業診断士協会に加入し、大きな影響を受けました。特に、今もメンターとしてお世話になっている香川県中小企業診断士協会の元会長・山下先生との出会いが、独立を決意する大きなきっかけとなりました。
山下先生が主催する研修では「3000万円の民間契約を当たり前に」という目標が掲げられており、その考え方に大きな衝撃を受けました。さらに研修仲間が次々と独立していく様子を見て、私も独立したい気持ちが芽生えてきました。

売り場で店長のような業務に携わると同時に、本社でも勤務していました。その経験を通じて、予算や在庫の管理の重要性を学びました。特に在庫管理について厳しく指導を受けたことで、その意識が強く根付いたと感じています。また、こうした業務を遂行する中で、エクセルの基本的なスキルを身につけることができました。
この経験は現在の仕事にも役立っており、特にエクセルのスキルは事業計画書の作成などに大いに活かされています。

はい。経営に関わる仕事をしていきたいと考え、コンサル業界への転職を視野に入れて中小企業診断士試験の勉強を始めました。
勤務先の社長と話す機会が多く、「経営とは何か」を学ぶ中で経営への興味も深まっていました。しかし、アパレルの店長という立場からコンサル業界への転職は難しいと感じ、業界にこだわらず「経営に関わる仕事をしたい」と中小企業診断士の取得を目指しました。
32歳で資格を取得し、転職活動をする中で、転職エージェントから「(故郷である)岡山にあるコンサル会社で募集が出ている」と紹介されました。応募したところ即日内定をいただき、家族の後押しもあり、転職を決意しました。

パートナーCFO養成塾受講を通じた気づきと変化~財務だけでなく経営の伴走者として

養成塾に入塾したきっかけは、高森先生の著書『中小ベンチャー企業CFOの教科書』を読んだことです。コンサルタントとして「どのようなコンテンツが適しているのか」「どのような手法が効果的なのか」を模索している中、この本のタイトルがまさに自分の求めているものだと感じ、手に取りました。
書籍を通じて「CFO8マトリックス」の考え方に触れ、とても魅力を感じました。いくつか他のプログラムと比較検討しましたが、「パートナーCFO」は岡山にはまだ受講者がいないことを知り、さらに内容も高度であると感じて「これに挑戦したい」と思いました。
実は本講座を受講する1年前にフロントセミナーを受講したものの一度は見送りました。しかし、独立を決意したことで「今が受講のタイミングだ」と確信し、受講を決めました。ですから、独立後のビジョンをある程度描きながら受講したと言えます。

中小・ベンチャー企業CFOの教科書(高森厚太郎著、中央経済社)

「根拠のある自信を持ちたい」との思いを持って、養成塾を受講しました。特に、価格設定の考え方や顧客への提案方法について学び、大きく意識が変わりました。
たとえば、受講前の私は伴走支援の単価についての認識が十分ではなく、それを見直したいと考えていました。税理士のフィー感覚に影響を受け、「5万円で十分」と考えていましたが、現在ではクライアントのニーズに応じた適正価格を提示できるようになりました。

また、受講前は意識していませんでしたが、塾には非常に優秀なハイキャリアの方々が多く集まっており、そのレベルの高さに驚かされました。特に、企業での豊富な経験を積んだうえで独立される方も多く、彼らの視点や考え方から学ぶことも多かったです。
さらに、講義では1on1でのコーチング練習があり、そうした機会を通じて親しくなることもできました。受講を通じて得られた経験や受講生同士のつながりは、今後のキャリアに大いに役立つものとなっています。

一方で、自分の進む方向性は受講前から変わっていません。
CFOといえば「数字や財務の専門家」のイメージがありますが、それだけでは不十分なのではないかと以前から感じていました。もちろん、CFOですから財務の専門家である必要はあります。しかし、それに加えてクライアントのビジョンや思いといった理念の部分をしっかり理解し、サポートすることも重要だと考えています。
クライアントが目指す方向性や、やりたいことを深く理解し、共に戦略や計画を策定する。そして、その実行を財務の専門家として支える。このアプローチこそ、自分が進むべき道だと確信できました。受講前から大切にしていた考えですが、養成塾での学びを通じて、さらにその思いが強まりました。

P-CFOサロンでさまざまな話を聞くことで、自分を高める機会が得られることを期待しています。
忙しくて毎回の参加は難しいのですが、先日の「事業計画の極意」に関する講義のように、レベルの高い勉強会が充実していると感じています。こうした学びの機会にはとても興味があるので、時間が許す限り積極的に参加したいと考えています。
こうした学びの場としての充実を、これからも楽しみにしています。

倫理法人会での講演。交流会に参加して、人脈形成に注力しています

地方企業にこそ求められるパートナーCFOの役割~パートナーCFOに興味を持つ方へ

売上目標は、まずは年商3,000万円を当たり前の水準にしたいと考えています。そのためにも、すでに定義しているミッション・ビジョン・バリューの軸をぶれさせることなく、財務支援にとどまらず、真の経営パートナーとして幅広く関与していきたいと考えています。
たとえば、理念を明確にすることで、企業文化の定着や幹部育成につなげたいと考えています。現在も幹部育成研修の提供を視野に入れ、取り組みを進めています。
ただし、自社に多くの人材を抱えて規模を拡大する方針は考えていません。自分の業務はまだ標準化できていない部分が多く、現状では「私がやるからこそ成り立っている仕事」になっているからです。そのため、人員を増やすのではなく、同じ志を持つ横のつながりやネットワークを広げていきたいと考えています。自分の得意分野以外の業務は、信頼できる専門家に依頼し、協力しながら価値を提供していきたいと思っています。
また、毎月の顧問契約や伴走支援の拡充にも力を入れていきたいと考えています。さらに、後継者向けの経営塾の開催にも挑戦しています。参加者の集客に課題を感じていますが、口コミや事例共有を通じて認知を広げ、継続的に開催して学びの輪を広げていきたいと考えています。

実際に支援した地方企業では、財務管理のノウハウが不足していたため、伴走支援を通じて経営計画の精度を向上させました。地方にも財務コンサルタントを名乗る人は一定数いますが、実務経験を伴う専門的な財務支援が提供できる人材は限られるのではないかと思います。具体的な実務を伴わず、口頭でのアドバイスにとどまるケースも耳にします。
そのような中で、「パートナーCFO」として体系的に学び、実務支援ができるスキルや、的確なアドバイスを提供できる人材が地方に増えることは、非常に意義があると感じています。
私自身、パートナーCFOは比較的高度なベンチャー企業への支援が中心になるかと思っていましたが、地方の中小企業に対しても、学んだ知識やスキルは十分に役立つと感じています。むしろ地方でこそ、実務に基づいた財務コンサルティングが必要とされており、それを提供できる人材が増えることで、企業の成長や経営の改善に大きく貢献できると信じています。

特別な趣味があるわけではありませんが、読書が好きで、できるだけ多くの本を読みたいと考えています。現在の読書数は約1,050冊で、60歳までに3,000冊を目標にしています
また、仕事に関連する学びが中心になりますが、各種講座を通じてさらに知識を深めたいと考えています。
読書の内容は仕事に関連するものが多くなりがちですが、最近は財務系の専門書だけでなく、古典にも手を広げています。たとえば、アリストテレスやニーチェの著作にも挑戦しました。

財務会計の知識だけでなく、経営全般や経営コンサルティングに必要な幅広い知識やノウハウを得られることが、養成塾の大きな魅力です。特に、「人・組織経営」の知識を深められる点は、非常に価値があると感じています。
財務の専門家でありながら、組織マネジメントにも精通していることは珍しく、差別化につながる強みになります。人事系の専門家には組織運営の知識があるかもしれませんが、財務の視点と組み合わせたアプローチができることは、大きな武器になります。
また、養成塾で得た資料や学びを実際のビジネスシーンに活かすことも可能です。以前スポットで関わったお客様に対して、独立の挨拶に伺い、塾で作成したプレゼン資料を見せながら簡単に説明しました。「こういった内容で支援を行っているので、適した方がいれば紹介してほしい」と伝えたところ、数日後に問い合わせがあり、そのまま契約に至ったケースもありました。
さらに、養成塾では非常にハイキャリアな人脈を築くことができる点も大きな魅力です。独立を目指す人だけでなく、企業に属するビジネスパーソンにとっても、得られる知識やネットワークは必ず役立つものだと思います。そのため、私は自信を持っておすすめできます。

株式会社エンビジョン・コンサルティング 代表取締役
樋之津 智文さん

【プロフィール】
株式会社エンビジョン・コンサルティング 代表取締役
1986年岡山県生まれ、第二の故郷は14年間在住した香川県。
大学卒業を、アパレル会社を経て、税理士法人が母体の経営コンサルティング会社に転職。ゼロからの新規事業開発に直面し、そこから「守っていては負ける」との気づきを得て積極的な提案を重ね、企業再生や補助金獲得で実績を築く。自身の事業も売上ゼロから年間2,000万円超に成長させた経験を活かし、独立開業。経営者に寄り添いながら「お金の不安」を解消し、夢の実現を支援することを使命とする。「超一流のビジョン経営」を志し、人を大切にする経営の実現に向けて日々奔走している。
株式会社エンビジョン・コンサルティング https://en-vision-consulting.com/

<編集後記>
本インタビューを通じて、樋之津さんの歩みと現在の活動について知ることができました。アパレル業界から財務コンサルタントへと転身し、数々の困難を乗り越えながら独立に至った姿勢には、挑戦を続ける起業家の精神が息づいています。特に、単なる財務支援にとどまらず、経営者と伴走しながら企業の未来を共に創る姿勢が印象的でした。

「つながれた縁を大切に、未来を共につくる」。このミッションは、樋之津さんのこれまでのキャリアを象徴するとともに、今後の道筋を示しているように思います。理念と実務を両立させ、後継経営者支援や幹部育成にも取り組む姿勢は、財務コンサルタントの枠を超え、より広範な経営支援へとつながっています。そして何より、机上の理論ではなく、経営者に寄り添いながらその成長を支える「本当の伴走支援」を体現していることが、樋之津さんの最大の強みではないでしょうか。
今後も地域企業の発展に貢献しながら、パートナーCFOとしての価値をさらに高めていくと思います。その活躍に引き続き注目していきたいです。

<取材・文>
第7期生 中郡 久雄
取材日:2025年1月9日