MBAで理論を、パートナーCFOで実務を
──ブランディングの専門家が得た学び

株式会社月白 代表取締役
青栁 寛之(あおやぎ ひろゆき)さん
今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾第7期(2024年6月~11月)を修了された青栁寛之さんです。
電通グループで30年間、プロデューサーとして、大手企業の国内コミュニケーション全般のクリエイティブプロデューサーや東京オリンピックプロジェクトなどの大規模案件も携わってきました。52歳で独立し、株式会社月白を設立。現在は「ブランディングによる企業価値向上」という独自のアプローチで、中小企業から上場企業まで幅広く支援されています。
ブランディングの専門家として活動しながら経営全般の学びを深めてこられた青柳さんに、現在の事業内容や独立に至った経緯、パートナーCFO養成塾での学び、そして今後の展望についてお伺いしました。
ブランディングで企業価値を向上させる
――株式会社月白の事業内容について教えてください。
青栁:ブランディングを中心とした経営支援を行っています。法人としては私一人ですが、プロジェクトごとに調査会社、広告代理店、PR会社、アートディレクター、コピーライター、カメラマンなど必要な専門家とチームを組んで対応しています。
私が提供するブランディングのサービスは、ロゴデザインや広告制作のようなプロダクション機能を主としていません。企業自身やプロダクト、サービスの「第一想起(ニーズが生じた瞬間に最初に思い出されるブランド)」の獲得することを目的にしています。その結果として、売上やLTV(顧客生涯価値)を高め、企業価値や将来のフリーキャッシュフロー向上につなげていきたいと考えています。
――なぜブランディングの専門家がパートナーCFO養成塾に参加されたのでしょうか。
青栁:ブランディングが企業価値向上にどう貢献するのか、それを財務や会計の言葉で定量的に説明できるようになりたいという課題意識がありました。私はブランディングを、企業価値を上げるための戦略的手段ととらえています。この課題を解決するため、財務や会計とブランディングを結びつけて語れるコンサルタントになりたいと考え、養成塾への参加を決めました。

52歳での独立とMBA取得
――電通グループを52歳で退職し、独立された経緯を教えてください。
青栁:独立だけを目指していたわけではありません。キャリアの節目に、これからの働き方を考えたとき、「いまさら」と思われるかもしれませんが、ポータブルスキルを体系的に身につけたいと考え、グロービス経営大学院でMBAを修了しました。
前職では専門性の高い業務に従事していましたが、新たな挑戦がしづらい組織構造にキャリアの停滞を感じていました。大企業では小さな変化にも時間がかかります。社会がこれほど変化しているのに、自分が変われないことに焦りを覚え、「このままではもったいない」と感じたのです。
転職も検討しましたが、自身の年代から新しい企業文化に適応する難しさを考え、最終的に起業を選びました。
――MBAはどのような基準で選ばれましたか。
青栁:働きながら学べること、そして実務家講師から学べる環境を重視してグロービスを選びました。マッキンゼーやボストンコンサルティングなどの現役または出身の講師陣から、理論だけでなく実践的な知識を体系的に学べたことが大きな財産です。MBA修了が独立への決意を後押ししました。
――独立後に気づいたことはありますか。
青栁:独立して初めて、好きで続けていた仕事だと思っていましたが、想像以上に、組織に自分を合わせて仕事をしていたと気づきました。今は、自分の興味がそのまま仕事に直結します。財務を学べば、それがすぐにクライアント支援に活かせる。学びと実践が循環するスピードと面白さは、独立して初めて体感しました。

業績不振の洋菓子店を国際的評価へ
――独立後の印象的な成功事例について教えてください。
青栁:直近では神楽坂の小さな洋菓子店を3年間支援した事例が最も印象深いです。3人で運営する小規模な会社で、支援開始時は業績不振の状態でした。
ブランディングに限らず支援をして、まず財務面では、赤字から黒字への転換を実現し、売上は3倍に成長されました。品質面では、もともとはショコラティエとしての実力をお持ちでしたので、ICA(インターナショナル・チョコレート・アワード)やAOC(アカデミー・オブ・チョコレート)といったヨーロッパの厳格な国際コンテストで、3年間で22個の賞を獲得されました。昨年のICAでは日本で最も多くの賞を取った企業となりました。さらにパリのサロン・デュ・ショコラへの出店も実現しました。
当初は業績不振だったのですが、『VOGUE JAPAN』や『文春』などのメディアにも取り上げられ、新進気鋭のチョコレート店として認知されるようになりました。企業価値を上げることができたと思うと、とても嬉しいですね。
個人企業の支援は、その人の人生を変えることにもつながります。このクライアントの支援は3年継続して、先日最終日を迎えましたが、クライアントが自信を持てる軸を作れたとお話しされたのが、何より嬉しい成果でした。
高森さんとの出会いとP-CFO養成塾
――パートナーCFO養成塾との出会いについて教えてください。
青栁:ある戦略スクールに参加した際、ブレイクアウトルームで代表の高森さんと同じチームになったのがきっかけです。そこで初めてパートナーCFO養成塾のことも知りました。
――受講の決め手は何でしたか。
青栁:私は、ブランディングを企業価値向上の手段として位置づけたいと考えていました。多くのクリエイティブに携わるブランディング専門家は、美しいデザインや印象的な広告を作ることには長けていても、第一想起やリピート率やLTVにつながるという思考の方は少ないのです。私は、ブランディングが企業価値やキャッシュフローの向上にどう貢献するのか、それを財務や会計の言葉で説明できる、その具体的な方法論を学べると期待しました。
――MBAとパートナーCFO養成塾の違いをどう感じましたか。
青栁:MBAでは理論を体系的に学びました。経営戦略やマーケティング理論、会計財務など、経営学の基礎となる概念やフレームワークを幅広く学習しました。これらは経営を俯瞰的に理解する上で非常に重要でした。
一方、パートナーCFO養成塾はCFOの周辺領域を実務レベルで学ぶ場でした。特に中小企業を対象とされている点はMBAとの大きな違いだと思います。MBAは経営全般を学ぶ場ですが、パートナーCFO養成塾は、より具体的なツールも提供してくれる場でした。ブランドエクイティが第一想起に貢献し、それが「将来キャッシュフローの現在価値」として定量化できるか――。この関係性を、理論から実務に落とし込み、経営判断に活かせる形に整理できたことは、大きな成果でした。

財務の専門家との協業という新たな視点
――養成塾での最も重要な学びは何でしたか。
青栁:最も大きな学びは、繰り返しになりますが「ブランディングも将来のキャッシュフローとして定量的に捉えられる」ということでした。つまり、ブランド活動にもKPIやKGIの仮説を立て、財務的な視点から検証できるという発見です。
また、もう一つの気づきは当然ですが、「自分が財務のプロフェッショナルになる必要はない」ということでした。受講生の多くはすでに財務の専門知識を持ち、そこから他分野へ領域を広げようとしている方々でした。その姿を見て、私は同じ土俵で競うのではなく、ブランディングの専門家として財務の専門家と“協業”する可能性を強く感じました。
特に大きかったのは、財務の専門家たちと共通言語で話せるようになったことです。
MBAでも学びましたが、粗利率、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、運転資本、フリーキャッシュフロー(FCF)といった指標を実務的に理解し、ブランディング施策がそれらの指標にどう影響するのかを説明できるようになりました。
たとえば、「第一想起の向上が顧客獲得コストの削減につながり、それがキャッシュフロー改善に寄与する」といった関係性を、財務の言葉で示すことができます。
これにより、CFOや財務担当者と同じ視点・言葉で議論ができるようになったことは、私にとって非常に大きな成果でした。
同期の後藤さんとの協業
――養成塾の同期である後藤さんとの協業について教えてください。
青栁:後藤さんとは、グロービスの同窓生でもあり、また別の講座を受講していて、私がパートナーCFO養成塾を受講するよう、お誘いしました。
彼とはPMI(Post-Merger Integration:M&A後の統合プロセス)案件のコンペで一緒に提案し、競合に勝つことができました。PMIの専門家である後藤さんと、対象業界に近いキャリアを持つ私。この掛け算が功を奏した結果だと思います。
現在も後藤さんとは、PMI支援を継続しています。やはり、MBAや養成塾で得た共通言語があることで、協業が非常にスムーズでした。財務的な観点での議論も含めて、お互いの専門性を活かしながら、クライアントに総合的な価値を提供できています。
この経験から、パートナーCFO養成塾は単に知識を得る場ではなく、共通言語を持った専門家のネットワークを構築する場でもあると実感しました。
ブランディング×財務×PMIの統合サービスへ
――青栁さんは先日、財務・ブランディング・PMIを横断的に支援できる基盤として、経営革新等認定支援機関の認定を取得されたとうかがいました。今後、どのようなサービス展開を構想されていますか。
青栁:今後1年程度で、ブランディング×財務×PMIを一気通貫で支援するサービスパッケージを構築したいと考えています。具体的には財務の専門家と協業して、事業再構築やM&A、資金調達、PMI、そしてリブランディングまでを一連の流れとして支援する体制です。
M&AやPMIは、リブランディングと相性が非常に良く、経営の再成長を後押しする組み合わせだと実感しています。
経営革新等認定支援機関の認定は、財務の知識を持っているという客観的な証明になると同時に、補助金申請から実行支援まで一気通貫でサービスを提供できることを示すものと考えて取得しました。
――パートナーCFO協会の一員として、今後どのような活動や協業をしていきたいと考えていますか。
青栁:協会のメンバーと協力して仕事ができることを強く期待しています。私自身はCFOとしての専門性を持っているわけではありませんが、ブランディングに関しては経験と知見があります。だからこそ財務に強い方々とタッグを組むことで、一人では成しえないような大きな価値を生み出せると考えています。
協会には、そうした協業の機会と、専門性を掛け合わせてチームを組成できる可能性があると思います。
パートナーCFOを目指す方へのメッセージ
――最後に、パートナーCFOに興味を持った方へ、養成塾の魅力やメッセージをお願いします。
青栁:まず、提供されるコンテンツの充実度には本当に驚きました。これだけの質の高い内容を体系的に学べる講座は他にないと思います。実務で使える形で整理されており、受講料以上の価値があると感じました。
さらに、パートナーCFO養成塾は、多様なバックグラウンドを持った方々が集まる場所です。私のように財務分野以外に専門性を持つ人にとっても、大きな価値がある場所です。
企業経営は有機的に動いているものです。CFOは確かに要のポジションの一つですが、だからこそ周辺領域の専門家と共通言語で対話できることが重要になります。
養成塾で得られる共通言語は、確実に協業の幅を広げてくれます。ですから、財務のバックグラウンドにこだわらず、さまざまな分野の専門家の方にぜひ参加をおすすめします。自分の専門領域を財務の視点から見直すことで、新たな価値創造の可能性が見えてくるはずです。多様な専門性を持つ人材が共通言語でつながることに、これからのビジネスの大きな可能性があると私は確信しています。
――青栁さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール
株式会社月白 代表取締役
青栁 寛之さん
大学卒業後、電通グループで30年間プロデューサーとして、ブランドコミュニケーションに携わる。本田技研の国内コミュニケーション全般のクリエイティブプロデューサー、2020オリンピック・パラリンピック東京大会のブランドデザインをプロデューサーの一人として携わる。グロービス経営大学院でMBA修了(2021年)。2024年に株式会社月白を設立。経営革新等認定支援機関認定(2025年)。現在は「第一想起獲得による企業価値向上」をミッションに、中小企業から一部上場企業まで幅広く支援。
株式会社月白 https://www.essepartum.com
<編集後記>
青栁さんの「ブランディングで企業価値を向上させる」という明確なビジョンと、それを実現するための戦略的アプローチが強く印象に残りました。
特に心に残ったのは、神楽坂の洋菓子店の事例です。業績不振の状況から売上3倍、国際コンテストで22個の賞を獲得するまでの支援は、単なるブランディングを超えて、経営者の人生そのものを変える価値提供でした。
パートナーCFO養成塾での学びを通じて、自身の専門性を客観視し、財務の共通言語を獲得することで財務専門家との協業の重要性に気づかれた点も興味深いものでした。「財務のプロフェッショナルと競争するのではなく協力する」という発想は、専門性の掛け算による価値創造という、これからのコンサルティング業界のあり方を示唆しています。
MBAで理論を、パートナーCFO養成塾で実務を学び、ブランディングと財務を結びつけて企業価値向上を実現する青栁さんの今後の活動から目が離せません。

取材・文:第7期生 中郡久雄
取材日:2025年8月31日
