2021年11月20日

社外理事対談 淵邊善彦さん 

特別企画社外理事対談
日本パートナーCFO協会 代表理事 高森厚太郎×社外理事 淵邊善彦さん

スタートアップ、ベンチャーにとって
CFO/CLOなど専門家のサポートを当たり前に得られる世界を創りたい。
世界で勝負できるベンチャー企業を育てる力になりたい

日本パートナーCFO協会は2021年10月に社外理事として淵邊善彦さんをお迎えしました。

淵邊さんは元々大手法律事務所のパートナー弁護士として大企業支援に携わってこられました。スタートアップやベンチャー企業に関わる機会が増える中で、彼らが成長発展の場面で法務の問題で引っかかる様子を目の当たりにしてきて「日本の将来を作るスタートアップ、ベンチャー支援」を志し、2019年にベンチャーラボ法律事務所を設立されました。

今回は淵邊さんの社外理事就任を記念して、当協会代表理事高森厚太郎との対談形式で、淵邊先生ご自身のミッション社外理事として当協会へ期待することなどをお伺いしました。

【プロフィール】
淵邊 善彦(ふちべ よしひこ)氏 
ベンチャーラボ法律事務所 弁護士
https://venture-lab.net/

1964(昭和39)年生まれ。鹿児島県出身。東京大学法学部卒、ロンドン大学(UCL)法学修士。1989年に弁護士登録、海外法律事務所勤務を経て、2000年よりTMI総合法律事務所パートナー。中央大学ビジネススクール客員講師(2013年から同客員教授)、東京大学大学院法学政治学研究科教授(常勤)を経て、2019年1月ベンチャーラボ法律事務所開設。
ベンチャー・スタートアップ支援、M&A,国際取引、一般企業法務を主な専門分野とし、『クロスボーダーM&Aの実際と対処法』他著書多数。
所属:日弁連外国弁護士及び国際法律業務委員会委員、日弁連中小企業の国際業務の法的支援に関するワーキンググループ座長、ヘルスケアIoTコンソーシアム理事、日本CFO協会顧問、日本CLO協会理事、アジア経営者連合会会員。

1.ベンチャー、スタートアップの経営現場を知る二人がそれぞれ見出したベンチャー支援の道

法務顧問としての出会いから約12年

高森「この度は日本パートナーCFO協会の社外理事にご就任頂き、どうもありがとうございます」

淵邊「こちらこそよろしくお願いします」

高森「淵邊先生との出会いは、私がUSENグループにいた時に、法務顧問として新規事業の立ち上げに際してアドバイスをいただいたのがご縁ですね。2008年~2010年だったので、もう10年以上前になりますね。当時の淵邊先生はTMI総合法律事務所のパートナーで、企業法務弁護士としてバリバリ活躍されていたので、まさか独立されるとは思いもしなかったです」

淵邊「私も独立するとは思ってなかったです(笑)。今のベンチャーラボ法律事務所は、この12月で丸3年を迎えます。あっという間ですね」

ベンチャー、スタートアップの経営支援への共通する思い

高森「ベンチャーラボ法律事務所でどんなことをされているのか、改めて教えていただけますか」

淵邊「ベンチャーラボ法律事務所では、ベンチャー、スタートアップ中小企業ビジネスパートナーとして、法的経営的戦略や支援を提案しています。実際にそうした経営者から直接ご相談を受ける機会が多く、内容としては創業期のビジネスモデル適法な仕組みづくり、知的財産戦略、資金調達、契約書・規約作りなど、最初のビジネス作りの相談もあれば、上場が見えてきて組織をしっかりと固めたいという相談、海外展開についての相談など様々です。

TMIにいた頃は大企業相手の仕事で、法務部から法律問題だけ切り取って相談を受けるケースが多かったのですが、今のクライアントは法務部のない企業がほとんどです。その為、ビジネスに絡む法律全般について幅広くご相談を受けています」

高森「独立される前とは、クライアント層も相談内容だいぶ変化があったのですね。淵邊先生がベンチャー支援に入られたのはどういったきっかけですか」

淵邊「大企業の場合は法務部がありインハウスの弁護士がいて、ある程度のことは企業内で対応できます。さらに大手の法律事務所がついて応援する体制も整っています。一方、ベンチャーやスタートアップ企業では社内に法務の専門家が不在なうえに、経験ある弁護士が応援する体制もありません。そのため、ちょっとした法律的な問題でうまくいっていないケースを多く見てきました。例えば、創業当初に資金的な余裕がなく、リーガルチェックを受けずにビジネスをスタートしたために後からトラブルになってしまったり、あるいは海外との取引がスムーズに進められなくなってしまったり。

そういったベンチャー、スタートアップの経営者が周りに多かった影響もあり『日本の企業が成長し、経済全体が成長していく中で、もっとベンチャーやスタートアップに対して弁護士がちゃんとアドバイスできる体制が必要なのではないか』と問題意識を持つようになったことがスタートですね。

スタートアップやベンチャー、中小企業では、大企業と比べてリスクをとるし、意思決定のスピードも速い。社長と直接やり取りするので、すごくダイナミックで面白い仕事ができているなと思います」

高森「淵邊先生がベンチャー支援に入ったきっかけには、共感するものがあります。我々『パートナーCFO』という仕事も、まさに自分がEdTechベンチャーの取締役ナンバー2をしていた時の経験が基になっています。私は元々COOでしたが、行きがかりでCFOの役割も担うことになり、事業に加えて財務や労務等バックオフィス全般を見るようになりました。COOに専念しようと、自分の代わりになるCFOを探したものの、これがなかなか…。現場が分かり、経営的な部分も相談できる、さらに社外とつながれるような『経営者のパートナーとしてのCFO』が世の中にいない、と思ったことがきっかけです」

淵邊「なるほど、確かにいないですね。CFOは大企業に偏っていますよね」

高森「しかも、アーリーやシードの段階ではCFOはそれほど業務量があるわけではない。しかし、フルタイムで雇うとなると単価も高い。それならばフルタイムでなくてもいいという問題意識で、『パートナーCFO』という生業と養成塾、協会を始めました」

2.CFOとCLOは経営者を支える両輪

中小・ベンチャー企業こそ「法務はアウトソース活用を」

高森「淵邊先生は今独立されて3年とのですが、実際にベンチャー支援の世界に身を投じてみていかがですか? 元々の問題意識通りだったのか、あるいはまた違う世界が開けていたのか」

淵邊「法律の必要性や重要性を認識している経営者そうでない経営者すごく差があることを実感しています。最近の大学発ベンチャーなどでは、最初からしっかりと契約書を作ったり、特許権を押さえたり、海外取引で契約書をがっちり結んだりされています。このように起業当初から意識の高い経営者もいる反面、『弁護士に払うお金がもったいない』という感覚の経営者もいます。

日本の企業国内だけで勝負をしても大きくなれないので、海外とちゃんと勝負できるベンチャーを育てる必要があります。そのためには、私は最初からしっかりCFOやCLOといった専門家のサポートを受けられる経営環境が重要だと考えていますし、それが当たり前になってほしいと思っています。この3年で、スタートアップやベンチャー企業が専門家のサポートを受けることはまだ当たり前ではないことが分かったので、それを変えていきたいですね」

高森「中小・ベンチャー企業では、大企業のように専門家を社内に抱えるのは難しいので、サポートを受けられる環境は必要ですね」

淵邊「それこそ法務はアウトソースの活用が有効な分野だと思います。実際に我々も外部委託顧問弁護士という形で関わっています。
顧問先の法務部に代わり、営業担当者から契約書のレビュー依頼を受けたり、ビジネスの内容をヒアリングして経営者と一緒に契約書を作っていくことも。単に契約書の字面のチェックをするだけではなく、一緒にビジネスを作っていく仕事が多いですね」

AI、リーガルテックは専門家には便利なツール

高森「最近は契約書の締結や管理、AIを使った契約書作成等、いわゆるリーガルテックが話題ですが、リソースの限られる中小・ベンチャー企業ではこうしたサービスの活用も進んでいくのでしょうか

淵邊「大企業の法務部ではリーガルテックを導入するところも増えてきていますね。実は、我々の法律事務所でも導入しています。リーガルテックを使うとヌケモレの確認や条項の提案が示されるので、パラリーガルがファーストレビューの際に活用しています。私が最終的なレビューをしていますが、こうした使い方はすごく効率が良いですね。

ただ、中小・ベンチャー企業では、それほど契約書の数が多いわけではないので、導入コストを考えるとリーガルテックの導入や活用は現実的ではないかなと思います。そもそも、契約書のAIレビューはあくまでも契約書を比較しながら提案してくるものであり、その取引の実態や当事者の力関係などは反映されません。法律と経営上のリスクが分かる人が、ツールとして割り切って活用する必要があります。
そのため、今後も引き続き社外の弁護士や法務部の役割は重要でしょう。もし、本当に完璧なAIのシンギュラリティの時代になれば話は別かもしれませんが」

CFOとCLO ー存在感は違えども、ともに経営者を支える両輪―

高森「法律事務所というと、一般的には訴訟で相談に行くことが多いと思いますが、淵邊先生のお仕事の内容では一緒に契約書や取引を作っていくことも含んでいます。パートナーCFOも、単なる相談役でもなければ、作業屋でもない。一緒に事業計画をどう作るかに関わったりします。その点では共通するところがありますね。まさにパートナーCLO(Chief Legal Officer)といいますか」

淵邊「そうですね。私は、この2つは経営者を支える両輪だと思っています。CFOだけでもダメだし、CLOだけでもダメ。リーガルとファイナンス、総合的に経営者をサポートできる体制が社内にあればいいですが、特に中小・ベンチャー企業では社内に抱えられない会社も多いでしょう。そこで、上手にアウトソースしながらやっていけるといいなと思います」

高森「中小・ベンチャー企業では、特に管理部門はどうしても弱く法務は経理・財務より更にわかる人が少ない状況だと思います。経営者も全然わからない、かつ思わぬところに落とし穴があるので、CLOはまさに重要な支えであり、大事な役割だなと思います」

淵邊「CLOとCFOの違いという点では、CFOある程度どの企業でも必要だと認識されていますし、実際にアウトソースして対応できる部分が多い。一方、リーガルは紛争になってからの相談になることも多く秘密性・個別性とも高く、アウトソースするにしても信頼関係のある弁護士事務所でないと難しい点があります。弁護士法があるので、パートナーCFOのように弁護士でない者がパートナーCLOをすることもできません。そういった意味では、パートナーCFOとまったく同じではないですが、それでもやはり両方セットで経営に必要な機能かなと思います」

3.日本パートナーCFO協会へ期待すること

グローバルで活躍する会社をサポートできる財務の専門家づくりとCFO・CLOの相乗効果への期待

高森「淵邊先生には今年6月にP-CFOサロンでもゲスト講師としてベンチャーの法務についてお話しいただきました。P-CFOメンバーと接してみていかがでしたか」

淵邊「オンラインでしたが、皆さんから具体的な質問が出てきて、熱心に聞いている様子が伝わってきました。法律というと、どうしても『面倒くさい』とか『難しい』、あるいは『紛争になってから関係があるもの』というイメージがあると思いますが、実はビジネスにとってプラスになる面利益につながる面もあります。ベンチャー企業では似たような法律問題が起こっているので、リスクのある場所を知ることで紛争を未然に防いだり、そこまで深刻にならずに済むこともあります。そういった意味で、経営にプラスになる部分もあります」

高森「淵邊先生ご自身もベンチャー支援をしていらっしゃいますが、日本パートナーCFO協会の社外理事として、パートナーCFOや当協会に期待することをぜひ教えてください」

淵邊「一番はグローバルで活躍できる会社が育つ環境を作ることですね。そのためには、専門人材の育成経営者の意識を変えること、両方が必要だと思います。
これからの日本を担う、新しい会社をちゃんとサポートできるようなリーガル、ファイナンスの専門家をぜひ育てていきたいです。日本P-CFO協会は、まさにそこを狙っていると思うので、私もできることで協力したいと思います。ゆくゆくはCLOとCFOで相乗効果をだしていけたらいいですね」

高森「専門家育成といいますと、淵邊先生はこれまで東大のロースクールでも教鞭をとられていましたし、今は日本CLO協会の理事もされていますね。そちらはやはり大企業のCLOが中心なのでしょうか」

淵邊「そうですね。今は大企業の法務部の方が会員ですが、個人的には日本CLO協会にも、もっとベンチャーやスタートアップのCLOに入ってきてもらいたいと考えているんです。そして、いずれはベンチャー部会を作れたら面白いですね」

高森「それは楽しみですね!」

CFOがリーガルマインドを持ち、法律を含めた経営判断の場作りの立役者に

高森「パートナーCFOに対して、法務に関しては具体的にどのようなアプローチを期待されますか」

淵邊「経営に関する課題で、財務と法務どちらかだけが関係する事象はあまりなくて、法律や知財、労務が絡み、総合的な判断が必要なことが多いです。とはいえ、CLOがそもそもいない会社も多く、法律に興味を持っていない経営者も多いのが現実だと思います。
一方で、CFOCxO(Chief x Officer)職としては日本で一番認知されているし、重要な役割を果たしています。だからこそ、CFOが法律の重要性を知り、そのマインドを持って『この問題は法律面からも検討しないといけないよ』と、経営者の理解を促してほしいと思います。

財務や法務といった社外の専門家一緒にチームを組んで中小・ベンチャー企業のサポートする際パートナーCFOその核となる存在になってもらえるといいですね。
CFOが率先して巻き込んでもらえたら、役に立てるCLOの人もいっぱいいますし、今後さらに育ってくると思います。今は、CLOとして素質を持つ人材であっても、いわゆる法務部長として頼まれた契約レビューをするだけで終わってしまっていることもあります。
しかし、経営者の悩みや経営判断には、本来財務も法務も常に関わるもの法務の専門家経営判断の場に呼ばれ、その場で相談してもらえるような関係を築くためには、今経営者に近い立場にいるCFOからのアプローチが有効ではないかと考えています」

高森「CFO財務ができるだけではなく、法律も押さえておくこと関わり方の幅が広がるはずということですね」

淵邊「そうですね。私は今中央大学のビジネススクールでも教えていますが、実際にMBAにおいて法律は大事な科目です。特にM&Aなどの場面では、経営者は財務分析と法的なリスクの両方を見る必要がありますが、経営者一人で両方を見るのは限界があります。そこで、両方の専門家のサポートを得て『経営者が必要な情報をもとに、経営判断ができる』状態であることが重要なのです。
そういった意味で、MBAを学ぶ人が法律を知ることも、ロースクールの人がファイナンスを知ること等しく大事なことだと言えます」

さらなる変化の時代、日本の中小・ベンチャー企業の経営にサポート体制を

高森「日本では大企業ではかなりCFOやCLOの存在が浸透してきて、最近ようやく中小・ベンチャー企業に広がり始めていると思います。その中でも、CFOとCLOの認知の差というか、人材の量の差は確かにあるかもしれません。
そこは、淵邊先生これからの人生のミッションでしょうか。人生100年時代、75歳まで現役でやれると考えると、まだ20年弱ある。まだまだ世の中変えられますよね

淵邊「今の75歳は元気ですからね。TMIでもその世代がバリバリ活躍されています。我々も、まだこれからですね。
これから、ものすごく世の中が変わっていく時代になると思います。それこそ、今までと違うペースで。日本の企業が地盤沈下してしまわないよう、少しでも役に立ちたいですね。
日本の中小・ベンチャー企業を取り巻く専門家のサポート体制を充実させていきたいです」

<写真・文>2期生 溝上愛
取材日:2021年10月22日