2021年5月6日

P-CFO 島袋 忠さん

ゲームアプリ会社のCFO
成長するベンチャー企業で挑戦し続ける
そして番頭として社長を男にする

株式会社NextNinja(ネクスト ニンジャ)
取締役CFO 島袋 忠 (しまぶくろ ただし)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第3期生(2020年6~11月)の島袋忠さんです。ゲームアプリのベンチャー企業のCFOとして活躍されている島袋さんに、現役CFOならではのお話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社NextNinja  取締役CFO
神奈川県横浜市出身。大学卒業後、通信業界にて技術営業、事業企画・マーケティングのプロジェクトリーダー等を経て、2009年に株式会社NextNinja入社、2012年から現職。
プライベートでは、高校、大学、社会人でアメリカンフットボール。ポジションはラインバッカー。

(株式会社NextNinja)
事業内容:ゲームサービスの企画・開発・運営(発売中のプロダクト「グランドサマナーズ」「東方ロストワールド」「咲う(わらう)アルスノトリア」など)
資本金 :4億4,446万円(含、資本準備金)
経営陣 :代表取締役CEO 山岸聖幸
     取締役CFO   島袋 忠
URL  :https://nextninja.net/

ゲームアプリ会社のCFOの仕事

まず、株式会社NextNinjaのことをご紹介ください。

ゲームアプリの企画・開発・運営を行っているベンチャー企業です。
創業者で代表取締役CEO山岸聖幸大学在学中の2003年に立ち上げました。私が入社したのは2009年です。

従業員に派遣社員や業務委託の方々も含めると、足元は150人くらいです。組織としては、ゲームの企画をする部門、グラフィック制作部門、クライアントアプリとサーバー側の開発をする部門、そしてそれ以外の管理部門、と機能別組織になっています。
ここに至るまで山あり谷ありでしたが、お陰様でここ数年の業績は好調に推移しています。

CFOとしては具体的にどんなお仕事をされていますか。

一言でいうと会社の番頭のようなものです。
取締役CFOとして管理部門全般をマネジメントしています。

マネジメントといっても実務担当者がそこまで数がいるわけではないので、私自身が手を動かすことも多いです。特に、資金調達や株主総会などは直接関与します。あとは突発的に対応しなければならないことや、会社の経営課題なども自ら動いています

業績が芳しくなかった頃は、どう立て直すかということに頭を悩ませてましたが、最近は業績が上向いているので、今後の成長戦略をどうしていくか、どのような体制を取っていくかを考える必要があると思っています。
ゲーム業界というのは売上のボラティリティが非常に高いので、それをどうマネジメントしていくかCFOとしての課題の一つです。

入社されたのは今から約12年前ですが、当時はどんな会社でしたか。

スタッフの規模では今の1/3の50人くらいでした。
2009年当時は、いわゆる「ガラケー」、フィーチャーフォンがまだ主流(注1)で、占いやお天気などのモバイルコンテンツの運営その管理システムを販売していました。

(注1)初代iPhoneはアメリカで2007年に発売。日本での販売は2008年から。

そこから業界としては、GREE/Mobageがモバイルゲームの市場を築き、機器としてはiPhoneなどのスマートフォンがガラケーにとって代わり、そしてGREEとMobageが衰退し始めて、ゲームのプラットフォームもとアップルのAppStoreグーグルのGoogle Playが中心の課金型ゲームになって行きました。

当社も振り返ってみると、事業は2回くらいピボットしています。
スタッフの規模50人から30人に減少し、そこから資金調達もあり一時は250人まで増えました。そのピークから一気に50人まで減って、足元は150人まで再度増やしたという流れです。

事業企画から事業売却、採用まで何でもやった

「ベンチャー企業あるある」のボラティリティの高さですね。いろいろなご苦労があったのではないですか。

実は入社時はCFOではなく、事業部門の取りまとめ役として事業企画事業推進的な仕事をやっていました。
2012年に、前任のCFO兼管理部門のマネジャーが退社したので、当時予算を作っていた私「数字に強いからいけるでしょ」みたいな感じで指名され、CFOをやることになりました

前職の通信キャリアの会社にいるときに、グロービスの経営大学院に通いある程度は勉強しましたが、決算書もPLはともかくBSはそこまで深く読んでいなかったので、改めて簿記の勉強を始めるなど知識のキャッチアップが大変でした。

人も事業も増やすよりも、減らす方がものすごく大変ですよね。

そうですね。業績が苦しい時は様々なことに取り組みました。
プロジェクト毎パッケージにしての売却、いわゆる事業売却をやったときは、会社の生き残りだけでなく、何とか関係する従業員が働いていける環境を提供したいという両方の思いで必死に取り組みましたが、いろんな方からいろんな話が耳に入ってきます。

一方で、退職した従業員また働きたいと戻ってきてくれることがありますが、それは非常に有難いと思っています。
採用についても、一時期は私が入社から入社後の面倒を事務も含めてみていました。そのおかげでクリエイターたちのことや現場の状況もよく把握できました

しかし、さすがに今の組織規模で私が手を動かし過ぎるのもよくないので、権限移譲を進めているところです。

パートナーCFO養成塾の門をたたいた理由

グロービスのMBAも合わせると経験豊富なCFOとお見受けしますが、養成塾を受講した理由は何でしょうか。

先程も申し上げた通り、前任者の退職という偶然で今のポジションに就いたので、見よう見まねというか、我流で今までやってきたという自覚があります。

たとえば、管理部門の実務でいえば、入社以前に在籍した会社が上場企業や上場企業のグループ会社だったのでコンプライアンスコーポレートガバナンスはきちんとしており、何をやらなければならないかを理解した上で進めることができました。

しかし、我流というところは否めないので、これまでの自分の経験やスキルをきちんと体系化して学びたいずっと思っていました

また、ベンチャーファイナンスの領域に関しては、グロービスで学んだことは広く浅いものでした。ケーススタディでPLを作ってCFを引いてみてという程度で、たとえば資金調達の際に株主やVC(ベンチャーキャピタル)とどんなディールをやるとか、その中身は何でどのように詰めていくのかみたいな実務で必ずキモとなるところはやっていません。

当社では、その辺りのことは山岸代表取締役CEOと二人で、それこそ当たって砕けろ、みたいな感じで乗り切ってきました。
養成塾のことは、何かで検索してメルマガ登録はしていました。
それで、グロービス卒業生水野靖彦さん養成塾第2期生ということを知って、水野さんが通っていたのだから大丈夫かなと思い申し込みました。

そんなご縁があったんですね。パートナーCFOのネットワークの広さがわかりますね。
成塾を受講していかがでしたか。

パートナーCFOで学んだ8つの領域(注2)については、我流とはいえ全部経験したことだったんですが、それらを全て振り返ることによって、私自身のスキルセットとしても、そして当社のノウハウとしてもビルドアップすることができました。

(注2)全体管理、PL・CF改善、組織マネジメント、資金調達、採用、新規事業、Exit、事業再生・承継

なんと言っても、代表の高森さんの作る資料は本当に秀逸なんですよね。予算の管理シートでも、資本政策に関するフォーマットでも、これまで使って来たもの養成塾で学んだエッセンスを加えてどんどん改良していってます。とにかく会社の実務に役立っていますね。

受講生同士の情報交換や交流についてはいかがでしたか。

私はオンラインコースだったので、リアルの受講生の方々とはそこまで深い交流はできませんでしたが、2回ほどあったリアル受講の日は非常に良かったですね。第3期以前の方々ともお話することができました。

ビジネスにつながるかどうかは別にして、やはり同窓として同じ時間に同じことを学んだという安心感というか、何かあったときには相談しやすい仲間がいるということは、かけがえのないことだと思います。

スキルを教えるだけでなく、すぐに実践できるフォーマットやシートの提供、そして仲間ができるのが養成塾の魅力ということですね。
では、こんな講座があるともう一度養成塾に通ってみたい、というようなものはありますか。

8つの領域もっと深掘りするアドバンスコースのようなものがあれば、また受けてみたいですね。座学というよりは、あるテーマを設定してケーススタディして、参加者全員が頭も手も動かすみたいな。

ITとインターネットの将来性

話が前後しますが、島袋さんはそもそもなぜNextNinjaに入社されたのですか。

大学では都市計画や交通工学を学ぶ中で、ITやインターネットの将来性を強く感じました。
研究室では、今のグーグル・マップなどの地図アプリの元祖のようなものを作りました。
それは、この土地の明治時代はこんな状態、昭和何年はこんな状態、というように土地の利用状況を時代毎にレイヤー表示させるブラウザ上で動くシステムです。

卒業後は、インターネットプロバイダーとネットワークの会社技術営業をやりました。
その仕事を通じて会社経営に興味を持ち、通信キャリアに転職して事業企画に携わりながら、プライベートグロービスの経営大学院に通いました。
そして当社に入社したのですが、モバイル業界という成長産業のベンチャー企業という点が非常に魅力でした。自分も成長する企業にいて挑戦したいと思ったのです。

会社の成長のために挑戦を続け、社長を男にする

それ以来、様々な困難を克服して今に至るわけですが、今後の島袋さんのやりたいことや将来展望のようなものがあればお聞かせください。

あまりロングスパンで将来のことは考えていません。とくに経験を積むに従ってあまり考えないようにしています。
というのも、経営をしていると何が起こるのかわからないので、その場その場で瞬発力を発揮して対応していくことが大事だと思っています。いかに目前のことに集中してやり切るかですね。

つまり、当社の成長のために日々一生懸命やっていくというのが、自分としては一番楽しいことですね。会社に貢献するというとおこがましいですが、そんな気持ちは大切にしています

山岸代表取締役CEOとは二人三脚で会社を牽引されてきたんですね。

山岸とは10年以上の間、紆余曲折もアップもダウンも一緒に乗り越えてきたので、私としてはそろそろ男にしたいと思っています。

と言いますと、IPO(上場)でしょうか。

IPOもマイルストーンの一つとして挑戦し甲斐がありますね。IPOはまさにCFOの腕の見せ所ですね。

別の観点からの質問ですが、島袋さんは冒頭に「会社の番頭のようなもの」と仰いました。
理論派のナンバーツーとしてトップを支えるという仕事は、島袋さんに合っているということですか。

理論派かどうかはわかりませんが、トップとして会社を牽引するよりも後方で支える方が性に合っているとは思います。

ちょっと答えにくい質問かもしれませんが、創業者CEOと10年以上も苦楽を共にできた秘訣のようなものはあるのでしょうか。

経営者はいろんなタイプの方がいらっしゃると思うのですが、どの経営者も破天荒な部分があると言いますよね。逆に言えば、そんな部分がないと経営者、まして創業者としてはやっていけないと思います。

山岸もそんな面はありますが、私が魅力を感じるのは彼を放っておけないというか、山岸がワーッと走って行って散らかした後を、私が整頓しながらついて行く。その役割分担が心地よいというか、馬が合うんでしょうね。

島袋さんが、やりがいを持って仕事をされている理由がよくわかりました。
最後に、現役のCFOの視点から、これからCFOやパートナーCFOを目指している方にアドバイスがあればお願い致します。

CFOの定義にもよると思いますが、私の場合は公認会計士や監査法人出身者のような会計の専門家ではありません。それでも経営者の側にいて、自分で勉強もしてきましたが実践しながらやってきたという感じです。

一緒に働く経営者の方次第だと思いますが、無理やり自分のスタイルを変える必要はないと思います。実際に飛び込んでみてやってみる、というのが一番早いかもしれないです。

(編集後記)
島袋さんは「我流」と謙遜されていますが、実務経験に裏打ちされたお話はそれだけ重みがありました。
また、ご自身のことを「会社の番頭」とも表現されていましたが、アメリカンフットボールの選手としてはディフェンスの司令塔であるラインバッカーを務められていたことと合わせて考えると、トップを支え伴走する今のお仕事が本当に性に合っているのだと感じました。
島袋さんがこれからどんな活躍をされるのかとても楽しみです。

<取材・文>第2期生 森本哲哉
取材日:2021年3月19日