2023年6月18日

P-CFO 土橋 達也さん

東証プライム上場企業の部長職×MBA×パートナーCFO
~上場企業、ベンチャー・スタートアップ企業の企業価値向上に寄与するパートナーCFO~

東証プライム上場企業 グループ予算管理部 部長
土橋 達也(つちはし たつや)さん

今回ご紹介するのは、パートナーCFO養成塾の第5期生(2022年6月~11月)土橋達也さんです。
土橋さんは、東証プライム上場企業のグループ予算管理部の部長職として勤務され、同社の連結グループ会社3社の監査役も兼任されています。2022年3月にグロービス経営大学院大学でMBAを取得後にパートナーCFO養成塾に入塾、養成塾修了とほぼ同タイミングからプロボノ・パートナーCFOとしてスタートアップ企業の支援を開始されています。
そんな土橋さんに、会社員としての活動やMBA取得の経緯、パートナーCFOとしての活動状況をお伺いしました。

【プロフィール】
鹿児島県出身。2022年3月グロービス経営大学院大学 経営研究科(MBA課程)修了。
中学生時代から松下幸之助氏や稲盛和夫氏の著書に触れ、いずれ経営者になるためには簿記の知識が必要と感じ、21歳の若さで日商簿記1級を取得。
これまで、ベンチャー企業から上場企業まで計6社での勤務経歴を持ち、ファイナンス・アカウンティング領域のキャリアは20年以上。
現在は東証プライム上場企業の部長職と連結グループ会社3社の監査役を務めると同時に、パートナーCFOとしてスタートアップ企業の支援にも携わる。

東証プライム上場企業の連結グループ会社40社を束ねるグループ予算管理部長として

――まずは、土橋さんの会社員としてのお仕事について教えていただけますか。

東証プライム上場の人材系企業で、グループ予算管理部の部長職として勤務しています。また、連結グループ会社3社の監査役も兼任しています。
私が責任者を務めるグループ予算管理部では、IFRS(国際会計基準)導入連結グループ会社40社の中期経営計画策定から単年度の予算策定予実績管理FP&Aを意識した財務分析と情報提供のほか、M&AやPMIと言われるM&A後の経営統合マネジメントの業務も行っています。

――「FP&A」というのは外資系企業では一般的で、CFOを目指す人の登竜門的ポジションといった話を聞いたことがあります。FP&Aについてもう少し教えていただけますか。

FP&A(注1)というのは、予算管理だけに留まらず、資本コストを意識した財務データの分析を通して事業価値の提案を行う財務専門の職種や業務のことです。欧米企業ではすでに普及が進んでいる一方、国内ではまだまだ知名度は低いですが、NECや花王などの大手企業では導入されています。

当社のグループ予算管理部は2年ほど前にできた新しい部署ですが、私個人としても組織としても、このFP&Aを意識した分析や提案を行うことを心がけています。それにより、自部門を会社に対してよりバリューを出せる組織に成長させたい、そして自社グループの事業価値を高めて大きく成長させたいと考えています。
こういったことを、日々、当社のCFOと話しながら、FP&Aの役割や業務の社内浸透に取り組んでいる最中ですね。

(注1)FP&A (日本CFO協会HPより一部抜粋[https://www.cfo.jp/fp_and_a/])
Financial Planning & Analysis(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)の略。
海外の先進企業では、経営の意思決定を支える機能として「FP&A」という部門がCFOの傘下として確立されています。
「分析、予測、計画の策定、業績報告といった業務を通じて、経営や事業の意思決定プロセスに貢献する」というのがFP&Aの主な業務で、日本では経営企画部門や社長室でその機能を担っているケースや、経営管理部門、または事業部の企画・管理部門で行っているケースなど様々。

本業で自社グループの企業価値向上に尽力し、パートナーCFOに活かせるスキルと経験を獲得

――実務ではM&AやPMIにも従事されていると伺いました。具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。

私が属する人材業界はM&Aが活発に行われている業界で、当社においてもM&Aは成長戦略のひとつです。
その中で、私の部署は、バリュエーションと言われるM&Aの意思決定に影響を与える企業価値算定に関わっています。M&Aの提案部門が行ったバリュエーションに対して、客観的立場から資本コストは妥当なのか、算定した企業価値が適切なのか、確実に投資回収できるのといった点から助言や提案を行うこともあれば、社外関係者と連携を取りながら私の部署で実際にバリュエーションを行うこともあります。

また、PMIに関しては、管理会計・財務会計に特化したPMIを担当します。具体的には、会計システムの統合や会計ルールの統一化、監査法人や税理士法人との対応など、管理機能の経営統合マネジメントです。

――現在のお仕事でやりがいを感じるのは、どのような時ですか。

グループ予算管理部の仕事としては、連結グループ会社40社の財務データを整理し、FP&A的な分析や提案を含めてボードメンバーに提案する機会が多くあります。
自分の分析結果や提案内容が経営の意思決定に生かされ、自社グループの企業価値向上に貢献できた時は大きなやりがいを感じますね。あとは、M&A時のバリュエーションにおいて、MBA で学んだファイナンス知識を活かせることもやりがいがあります。

また、連結グループ会社3社の監査役としては、リスクマネジメントの観点から会社を捉えるなど、これまで以上にさまざまな視点で会社を見れるようになったこと、各グループ会社の監査役から得られる情報により自分の引き出しが増えたことも面白さを感じます。

こういったFP&Aや監査役としてのスキル向上や経験は、パートナーCFOにも生かせる部分だと思っています。

【お仕事でのやりがいについて熱く語る土橋さん】

自身のキャリアに迷う時期にグロービス経営大学院の書籍に出会い、グロービス経営大学院へ進学

――土橋さんの前職経験も教えてください。

前職は、不動産業界やIT業界で勤務していました。不動産業界の会社では、経営管理部長としてIPO準備に携わりました。IT業界の会社は上場会社でしたので、財務・経理マネージャーとして連結決算体制の構築や会計監査対応なども行っていました。
現在に至るまで、ベンチャー企業から上場企業まで計6社での勤務経験があり、20年以上に渡り、ファイナンスやアカウンティングの領域でキャリアを形成しています。

――ビジネスキャリアが非常に豊富な土橋さんですが、これまでのキャリアで悩みや迷いなどはありましたか。

30代後半の話ですが、自分の将来のキャリアに悩んでいた時期がありました。経営者としてのゼネラリストの道に進むのか、公認会計士や税理士といったスペシャリストの道に進むのかといった悩みです。
中学生時代から漠然と経営者になりたいという志向があり、松下幸之助氏や同郷の稲森和夫氏の書籍を読んでいました。一方で、21歳で簿記1級を取得し、その後、ファイナンスやアカウンティング領域で実務経験を重ねながら公認会計士の勉強をしていた時期もありました。

――そのキャリアに関する悩みは、その後どうなったのでしょうか。

そんな時に、『志を育てる』(グロービス経営大学院著)という書籍に出会いました。その書籍では元スリーエムジャパン株式会社の社長、昆政彦氏へのインタビュー取材の章があり、昆氏はこれまでの有名企業でのCFO歴任談や「志」の醸成サイクル、価値観などについてお話されていました。また、次のようなことも話されていました。
「CFOはなろうと思ってもなれないかもしれない。だが、なろうと思わなければ絶対になれないのです」

この書籍を通じ、昆政彦氏の生き様や「志」に触れ、CFOを軸とした経営層の道、つまりゼネラリストの道を目指そうと決めることができました。
そして、CFOを軸とした経営層を目指すには、ファイナンスやアカウンティングだけでなく、経営全般を体系的に学ぶ必要があると思い、グロービス経営大学院へ進学することにしました。

原体験から経営ビジョンに共感。プロボノでスタートアップ企業のパートナーCFO開始

――社外におけるパートナーCFOの活動について教えてください。

現在は、株式会社薬zaikoという会社でパートナーCFO活動をしています。

この会社は「後ろ向きなアレルギー患者を前向き」というビジョンを掲げ、アレルギー領域に特化したオンライン薬局サービス「ALLERU」を運営しているスタートアップ企業です。

パートナーCFO養成塾の終了と同タイミングの2022年11月頃からプロボノ(注2)・パートナーCFOとして同社の経営に参画しています。

(注2)プロボノ(Pro bono)(出所:Wikipedia)
各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般。または、それに参加する専門家自身のこと。

――パートナーCFOとして就任するに至った経緯を教えてください。

株式会社薬zaiko代表の海老沼さんは、グロービス経営大学院(以下「グロービス」)の同窓生です。ベンチャービジネス系講義でも一緒に学んだ間柄で、その時から海老沼さんがアレルギーに特化したビジネスプランを検討していることは知っていました。

実は、私自身もアレルギー体質で、小学生時代には喘息で入院していた経験もあり、海老沼さんのビジョンやビジネスプランには当時から強く共感していました。

グロービス卒業は2022年3月、パートナーCFO養成塾のスタートは2022年6月でしたが、養成塾の後半に差し掛かった同年10月頃に私から海老沼さんコンタクトを取りました。そこで、高森さんが養成塾の講義で説明してくれたスライドを使って自分なりに資料を作成し、パートナーCFOのサービスコンセプトや自分の提供価値をプレゼンしました。
と言っても、もともと「こういうことをやっているので、海老沼さんの知り合いの経営者で困っている人がいれば…」というスタンスだったのですが、「じゃあ、ぜひうちで」と関心を示してくれ、話が進みました。お互いグロービス同窓生だったことで話が通じやすかったことに加えて、海老沼さんがグロービス時代から私のバックボーンに興味を持ってくれていたようです。また、私自身もせっかくなら自分の原体験にマッチするところで貢献したいと考えていたこともあり、意気投合して、養成塾の終了と同タイミングからプロボノ・パートナーCFOとして株式会社薬zaikoの経営に参画することになりました。

パートナーCFOとして経営管理体制の構築、ビジネスプランコンテスト大賞受賞にも貢献

――パートナーCFOとしての具体的な支援内容を教えていただけますか。

株式会社薬zaikoは創業間もないシード期のスタートアップ企業で、IPOを目指しています。私はパートナーCFOとして、経営会議体制の構築や事業計画に関する議論を行ってきました。養成塾で学んだ内容を活用して経営メンバーに損益やお金の流れを説明したこともあります。
会議体への参加頻度は、月1回の経営会議と週1回のペースで社内のミーティングへの参加で、社内ミーティングは基本的にオンラインミーティングです。
また、社内コミュニケーションツールのSlackでの相談や問い合わせには随時回答しています。

――パートナーCFOとしてのやりがいはどのようなものでしょうか。

ゼロの状態から経営管理体制を構築することに非常にやりがいを感じています。また、経営メンバーと一緒に将来の成長戦略を描くことにもやりがいを感じています。
会社の仕事では、グループの予算管理部として大企業ならではの財務管理やマネジメント業務が主体のところ、パートナーCFOとしては、経営メンバーと一緒に企業のステージや状況に応じて仕組みや体制を考えて作る、という会社の仕事ではできない経験が出来ています。こうした場面では特に本業での経営管理の経験やパートナーCFO養成塾での学びをダイレクトに活かせていると実感しています。

――グロービス経営大学院のHPで拝見しましたが、支援先の株式会社薬zaikoは同校のビジネスプランコンテストで大賞を受賞されましたよね。

はい。今年の2023年1月に、グロービス経営大学院で開催されたビジネスプランコンテストで大賞を受賞しました。このコンテストには54チームが参加したのですが、その中で3チームが大賞を受賞し、そのうちの1チームが株式会社薬zaikoです。
コンテストに関しては、新規事業・ビジネスプランの方向性の検討や戦略策定など、パートナーCFOとしてもバリューを発揮できたと感じています。
大賞受賞者は、特典として最大1,000万円の出資を受ける機会を得ているので、投資実行に向けて、今まさに私がパートナーCFOとして経営者と投資家とのコミュニケーションの橋渡し役も担っているところです。

【グロービス経営大学院主催のビジネスプランコンテストで大賞受賞(一番左が土橋さん)】
出所:グロービス経営大学院HP https://mba.globis.ac.jp/news/detail-22765.html

パートナーCFO養成塾受講のきっかけは高森さんの著書に出会ったこと。印象に残っている講義内容は「自分を商品化すること」の重要性

――土橋さんはMBA取得後、すぐに養成塾の受講をされています。パートナーCFO養成塾入塾の背景や理由を教えてください。

グロービス経営大学院在学中に、高森さんの著書『中小・ベンチャー企業 CFOの教科書』と出会ったのがきっかけです。たまたま書店で書籍と出会い、同時期に、グロービスつながりで聞いていた荒木博行さんのVoicy(ネットラジオ)でも高森さんの話を聞く機会があったのです。
もとからベンチャー企業を支援したいという想いもありましたし、高森さんの本を読んで、いつか独立するのであればパートナー CFOのコンセプトが自分にマッチしているとも思い、パートナーCFO養成塾の門を叩きました。

――パートナーCFO養成塾の講義で、印象に残っている講義内容は何でしょうか。

最も印象に残っているのは「自分を商品化すること」の重要性です。養成塾で「自分を商品化すること」に向き合えたからこそ、今、パートナーCFOの活動が出来ていると実感しています。
あとは、受講生同士で行ったコーチングセッションのグループワークも印象に残っていますね。コーチングスキルを得られたことはもちろんですが、それ以上に同じ養成塾同期メンバーのことを深く知れたことが良かったです。同期メンバーの人となりやスキル・経験などを知れたことが私自身のインプットにもなりました。

ほかにもまだまだありますが、高森さんが実際に使用されているツールやフォーマット集をいただけたこともありがたかったです。パートナーCFOのサービスコンセプトのパワーポイントや資本政策のエクセルシート、契約書など、すべてのツール・フォーマットを使えるというのは本当にありがたいですね。
実は、高森さんが実際に使用されているフォーマットを使えるというもの養成塾に応募した動機のひとつでした。

――養成塾受講前と受講後でどのような変化がありましたか。

先ほどお話しした内容とも重複しますが、パートナーCFOとして株式会社薬zaikoというスタートアップ企業の経営に参画できたことも大きな変化ですし、パートナーCFOとしてビジネスプランコンテストの大賞受賞に貢献できたことも大きな変化ですね。
今はプロボノという形で参画していますが、こうして将来の自分の武器につながる経験を積むことが出来ていることは、非常にありがたいと思います。

――グロービスMBAとパートナーCFO養成塾の相乗効果はありますか。

グロービスMBAでは、経営全般を体系的に学ぶことができました。そして、パートナーCFO養成塾は、 MBAで学んだことを具体的に生かしマネタイズする方法を丁寧に教えてくれた場所でした。そういった意味では相乗効果は大きいですし、パートナーCFO養成塾はMBAホルダーにもおすすめです。

【パートナーCFO養成塾5期生・東京リアルクラス、Day6最終講義を終えての記念撮影】

CFOを軸とした経営者として、会社のフェーズに関係なく、常に求められる人材でありたい、企業価値向上に寄与する人材でありたい

――土橋さんの将来の展望や人生の野望を教えてください。

グロービス経営大学院時代に言語化した「志」=「人生を通して行う任務」は「自分の価値を最大限引き出して、強みを磨き、社会に大きく貢献し続ける」です。
具体的なありたい姿は、CFOを軸とした経営者として、上場企業・ベンチャー・スタートアップ企業といった会社のフェーズに関係なく、常に求められる人材であり、その会社の企業価値向上に大きく寄与する人材です。

私は、CFOに求められる役割を4つ定義しています。それは、「1.企業価値の向上」「2.会計報告と内部統制・リスク管理」「3.資金管理と調達」「4.組織管理と企業文化マネジメント」です。
現在の上場企業での経験を通じて、このCFOに求められる役割4つを習得しつつ、養成塾で学んだ「中小・ベンチャーCFO8マトリクス®」で自分の強みをさらに強化し、パートナーCFOとして企業価値向上に寄与する。これをプロCFO を軸とした経営者になるためのキャリア戦略として位置付けています。

自分がいま描いている一番の理想は、上場企業のCFOになった後に、パートナーCFOとして活動することです。上場企業でのCFO経験があれば、様々な場面で相談される相手になれるのではないかと考えています。とはいえ、時間がかかる話ではあるので、自分の年齢も考えて、自分の中で期限を決めて行動していこうというところです。

<中小・ベンチャーCFO8マトリックス®>

パートナーCFOは「自分の可能性を引き出してくれたコンセプト」であり、「ベンチャー支援に対して具体的なアクションを起こすきっかけを与えてくれたもの」

――最後に、パートナーCFOに興味を持った方へのメッセージをお願いします。

私にとってのパートナーCFOは「自分の可能性を引き出してくれたコンセプト」であり、「ベンチャー支援に対して具体的なアクションを起こすきっかけを与えてくれたもの」です。

私自身、すぐに独立というよりは、将来の選択肢を増やすという意味でパートナーCFOに興味を持ちました。さらに、オープンセミナーで伺った「武器を手に入れるのは早いほうが良い」という高森さんのメッセージも後押しになり、パートナーCFO養成塾入塾というアクションを起こしました。
今は外部環境的にも、政府がスタートアップ企業を後押ししており、パートナーCFOの活動としては追い風のタイミングだと思います。

読者のみなさんもパートナーCFOに興味があれば、ぜひ一歩、踏み出してみてください!

<編集後記>

土橋さんと私は、パートナーCFO養成塾第5期・東京リアルクラスの同期生でもあり、グロービス経営大学院修了のMBAホルダーでもあります。また同年代ということもあり、養成塾の講義終了後はほぼ毎回のように飲み会で懇親を深めていました(笑)。 今回改めて、土橋さんのお仕事の内容や「志」、パートナーCFOの活動状況や成果をお伺いし、同年代のMBAホルダー×パートナーCFOとして良い刺激をいただきました。

土橋さんの今後のさらなるご活躍を応援しています!

<取材・文>
第5期生 須々田智昭
取材日:2023年5月2日